人情物語る家計簿(遠藤周作)
7月
23日
昔の家計簿を見ると、いかに貧乏だったかが、手にとるようにわかる。
私は世田谷の玉電松原のボロ屋に住んでいたが、今でも感謝しているのは旧玉川電車駅にちかい商店の人たちだ。
電器屋さんは私が「出世払い」ということでテレビもおいてくれたし、魚屋さんは「これでお宅の先生に栄養つけさせてよ」とただで魚をわけてくれた。
日中、丹前をきて家の前を徘徊している私を商店の人たちは最初、奇怪に思ったらしいが、まだ芽の出ない小説家だと知ると、そのような形で助けてくれたのだ。
まだ東京の街に人情が残っていた時代である。
家内が保存している家計簿を見ると、その頃の生活の一こま、一こまが甦ってくる。
私の手帳のほうを見るとその頃の原稿のことが思い出されてくる。














