見えていないモノの方が多いのに 見えたモノの方が真実ように 間違ってしまうのだろう 僕らの想像を広げるために たぶん目は存在しているのだろう 見ることより見ようとする その生きた目を持たなければならない 目で見えないモノのを見ることが 僕らのほんとうの目であって 空の青の向こう 夕日の紅の向こう この手の向こう 僕の向こうの君を
身体の中に花火があがる 足の土踏まずあたりから火をつけられ 神経に沿って首あたりまで キョーンㅤキョーンㅤキョーン そんな感じで一日に何十回もあがる 初めて精通した時のように 電気が走って行く特異体質になっている 神経っていうのは伝達が得意で 潰れた頚椎から 悪ふざけの信号をどんどん送る その花火は痛いわけではないが あがるたびにビクっと 動かしている身体を止めてしまう 消えて煙りになるまで景色を眺める いったい私の身体はどうなって…… もうこの刺激を五年ほど経験しているが 十代の花火を打ち上げ続けては 心はふざけて玉屋なんて叫んでいる まだなんとか許容内の打ち上げ花火だが いつの日かちまちまの線香花火くらいに なって欲しいと願っている 遊べない花火はしないほうが良いだろうから
鍋に 季節感を入れ 風景を入れ 心情を入れ ああだの こうだの ああだの こうだの ぐずぐず 鍋が煮詰まって ああだの こうだの 味見すると なにか足らない 詫びか 寂か それとも 情熱か ああだの こうだの 煮詰まって 煮詰まって 煮詰まっ……
また陽は昇るのだろう 朝に僕は目覚めるのだろう 世の中には様々なひとがいて 今年が最後の冬なのだろう そう思って朝を待ちながら 刹那の向こう側に何を見るのだろう 生命はみんなに平等なのだろうか 断つことは平等でも ランダムに必然は振り分けられ 生まれてすぐに…… そんな運命もあり 百歳をこえて眠るように…… そんな運命もあり とても平等とは思えない だけど そこには平等でなくてはいけない そんな思いが芽生えたりする もしかすると僕らはすべてのひとを 平等ではなくてはいけないための術を 何か持ち合わせているのだろう そうでないと生まれてきた意味が繋がらない そうだ 僕らは平安を成就させるために 愛を追求する生きものなのだろう きっと そうなんだろう
ひとり暮らしをして 恋をして 結婚をして 子どもができて 賑やかになって 子どもが出て行って 妻が旅立って こんなに私の取り巻く 環境が変わっても 再びひとり暮らしをして 何も変わらない 気がつけば寂しい私 どうしようもない私
冬の中間に佇み 誰のものでもない空を見上げ ポケットに手を突っ込み 持っていないナイフを探し お守りの落とした場所を考える 不安の隙に君の手が添えられた か弱きナイフ それでもグイグイ 胸の中を刺しては隣で微笑む 恋は愛を求め始め 希望が細く潰れてゆくと 僕は君のナイフを受け入れ 痛みを涙に変えた この世界から抜け出す入り口 誰も踏み込んだことのない空間に 新たな世界を見るために 視線をなるべく上へと向けた 湿った冷たさが 振り子のように落ちてきた 僕の失望は君の刺した切り口から 膜を張り苦笑いを促す 僕らは唇を合わせる 内緒の世界は扉が広く開き 空はふたりに指定席券を降らした
初恋 まだあげ初(そ)めし前髪(まへがみ)の 林檎(りんご)のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛(はなぐし)の 花ある君と思ひけり やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたへしは 薄紅(うすくれなゐ)の秋の実(み)に 人こひ初(そ)めしはじめなり わがこゝろなきためいきの その髪の毛にかゝるとき たのしき恋の盃(さかづき)を 君が情(なさけ)に酌(く)みしかな 林檎畑の樹(こ)の下に おのづからなる細道(ほそみち)は 誰(た)が踏みそめしかたみぞと 問ひたまふこそこひしけれ 島崎藤村 /詩集『若菜集』 教科書に載っていた島崎藤村の「初恋」。学生の頃は美しくて悲しい詩だと思っていた。少女の嫁入りで、恋し相手とのお別れの詩だと…。あとでわかったが、100パーセント甘酸っぱい恋の詩だった。もらった林檎を彼女と重ね、これは初恋なんだな。ああ、いいフレーズだ。大人びた彼女にため息するとそれが前髪にかかる。わたしたちが何度も歩いたところは道に。ああ、素敵だ。ぜんぜん、悲しい詩ではなく初恋の香りプンプンだよ! もう一度、読もうっと。。。
「がんばれ!」と言ったら 「がんばっているんだから プレッシャーをかけるなよ!」 と言われ 「がんばれ!」と言ったら 「ウザいなあ がんばりたくないっつーの」 と言われ 応援の言葉は どこへ行こうとしているのか
「これはお父さんから」 母は茶封筒を兄と私に渡そうとした 「お父さんを想い出すような物を買いなさい」 父の形見となるような物がなかったからだろうか 兄は 「そんなお金はいらないよ、母さんのために使えばいい」 受け取ることはなかった 私は 「何十年ぶりのお小遣いだろう、腕時計を買うから貰うよ」 やはり長男と次男では考え方も違う でも どちらも母への思いに違いはない 父は生前に二度 私に腕時計を買ってくれた 最初はもうすぐ中学生になる頃 家族で食事をした帰りに機嫌の良くなった父 その当時に流行っていたデジタル式の ストップウォッチとタイマーが付いている腕時計を 二つ目は就職する前に薄型の腕時計が流行っていて 皮のベルトにモダンな文字盤の物を買ってくれた 最近は携帯電話やスマートフォンを使うようになり 腕時計は使うことがなくなる けれど 歳を重ねるたびに時間が加速 この流れに抵抗したくなって ふと 腕時計を身につけていれば 時間の密度に変化が起きるかもしれない そんなことを考えるようになっていた だから 記念にもなる腕時計を買おうと 母からそのお金を受けとった 三つ目 今までの二つの腕時計は 「これだな」と選択の余地なく父が選んだ 今度は初めて自分で選ぶ腕時計 普段は何を買うにしても即決な私 だが 腕時計の専門店に一週間も通う 腕時計を知れば知るほど選び切れない 価格を妥協しないのならいい物がある でも 予算オーバー ローンを組むほどの魅力は感じない それなら父が買ってくれた腕時計のような すこしの贅沢が付いてくる物を買おう そして 仕事帰りの腕時計探しにも疲れてきた時 新製品が店頭に飾られた チタニウムのフレームとベルト 太陽光の蓄電池 電波による時間調整 サファイヤガラス ネイビーブルーの文字盤 これだ 迷いが少しもない そんな腕時計が現れて腕にはめてみる 軽くてガラスの向こうで文字盤が輝く 「これに決めました」 店員さんは 「こちらですね」と微笑み 「こちらは太陽光で動いています。 蓄電器の寿命は十五年くらいとなり、 その頃にそちらの交換となります」と さっそく腕時計をはめて専門店を出る その輝きを覗くと幸せな気分 これなら持病と付き合いながら あと十五年は頑張って働ける気がして 流されず潰れないように時を刻み 十五年を越えるビジョンも想像し 今という時間をすこし贅沢に生きて行こう
弾む鍵盤 繋がる音符の重なり 左の巨人から 右へ逃げてゆく小人 一度ずつ握り潰す ハイハットの上を弾き 貧乏揺すりを促しながら 拳銃が鳴り響く 意図的に外すリズム 離れるようで近づくセンサー 沈黙は素敵な間の音 不安にさせるエンターテイメント 落胆の隙を突くねじ込む和音 霹靂の金属音 ビルディングが 崩されて行くセッション 細かく更に細かく描いてゆく 材料をなくしたピアノ 空気の抜けたドラム エンドは互いの吐き出す息 吹き出す淀んだ汗 迫っては一気に消え 油断させては一気に消え そして 燃えカスは拍手に舞ってゆく