「いい人」を演じる限界──EU自動車産業の転換点
5月
27日
かつて世界の環境政策をリードしてきた欧州連合(EU)。
しかし今、その「いい人戦略」に綻びが見え始めている。
しかし今、その「いい人戦略」に綻びが見え始めている。
中国がとった戦略は極めて巧妙だった。環境保護を旗印に掲げながら、電気自動車(BEV)の開発で世界をリードし、EU市場にも進出。しかもその手法が実に計算されていた。現地に工場を建てれば関税を回避でき、安価な中国人労働者を活用して価格競争で欧州勢を圧倒できる。これはもはや“環境ビジネス”ではなく“環境を口実とした経済侵攻”に近い。
ポルシェの失速に代表されるように、歴史ある欧州メーカーが軒並み苦境に立たされるなか、メルセデスAMGがV8エンジン復活に向けて動いているという報道が出た。これを単なる「懐古趣味」と捉えるべきではない。欧州はようやく、「現実」と「理想」の間に橋を架ける準備を始めたとも言える。
CO₂削減は重要だ。しかし、それを実現する手段はBEVだけではない。合成燃料(e-Fuel)、マイルドハイブリッド、あるいは高効率な内燃機関など、技術は多様である。にもかかわらず、欧州はこれまであまりにBEV一辺倒だった。だが、火力発電によって充電されるBEVが本当に環境に優しいと言えるのか? これは今、誰もが直面すべき問いだ。
中国が「環境の味方」、欧州の老舗メーカーが「環境の敵」という構図が仮に成立してしまえば、それこそ欧州の敗北である。今必要なのは、「いい人」の仮面を外し、真に持続可能で競争力のあるモビリティ社会を築く現実的な議論ではないだろうか。