東の空が薄茜色に輝いてきました。 おひさまのめざめです。 少しずつ青色に変わりつつある空には、 薄っすらと白い雲が広がってきました。 押し寄せてくるさざ波のよう・・・。 そして、おひさまがめざめました。 今日のはじまりです。
本日もスモッ曇りの青空。 中国四千年の歴史の水墨画のように山際は白く霞んでいます。 秋の青空を忘れてしまいそうです。 午後からのすじ雲が風に吹かれて様々な表情を見せてくれました。 見た人により、その表情は変わります。 青空に白い雲。 雲に魅せられて・・・ 空を見上げてほんのりしあわせ。
昨夜もあまりにお月さまが綺麗だったので、ひとりで「わぁー♪」と叫んで、写真を撮りました。 空を見上げるたびに「わぁー♪」と叫ぶ毎日です。 新聞の月齢とカレンダーの満月○印が違うのは何故なのでしょう?不思議に思いました。 まん丸お月さま(少し欠け始めているけれど)を見つめていると、現世から離れて、かぐやの境地になります。 『桜物語』の次は【景望の見上げた空】を載せてみましょうか。
静謐 長い静寂の時間が流れた。樹木の香りを含んだ爽やかな風が吹き渡り、その場の者たちを浄化して、心身の痛みを消し去っていた。 そこへ、雪乃に支えられた八千代が森の奥から姿を現した。 「冬樹、森の神は、そなたを神の守に任ずると御宣託された。まだまだだと思っておったが、何時の間にか成長しておったのじゃな」 八千代は、神の守の御印である翡翠の勾玉を冬樹に差し出した。森全体が新しい神の守の誕生を祝福して、豊潤に光り輝き、その霊力は、冬樹の胸元で翡翠の勾玉として納まった。その瞬間、冬樹の左肩の邪悪な大蜘蛛を消滅させた。と同時に、社の紋を蔽っていた蜘蛛の巣が掻き消えていた。 八千代は、凛とした表情に変化した冬樹を頼もしく感じて腕を取った。 「父上、ありがとうございます」 父子の間に久しく訪れなかった愛情と信頼が戻ってきていた。 「雪乃、今まで苦労をかけたな」 冬樹は、愛情を込めて雪乃を抱きしめ、雪乃は、父子の和解に涙を流して喜んだ。 「光祐くん、祐里、そなたたちには辛い想いをさせて申し訳なかった。祐里の助けで森が治まった。それに冬樹夫婦も円満になった。この通り礼を申す」 八千代は、深々と頭を垂れ、傍らの冬樹と雪乃も一緒に頭を垂れた。 濡れた狩衣からワンピースに着替えた祐里は、気持ちまでも軽くなった。 「もう一晩ゆっくりして帰るといい」 八千代は、祐里との名残を惜しんだ。 「一月以上も桜河のお屋敷を留守にしてございます。私は、一刻も早くお屋敷に帰りとうございます」 祐里は、早々に身支度を済ませて発つことにした。 「お爺さま、お父さまの故郷に伺うことができまして嬉しゅうございました。どうぞ末永くお元気で、冬樹叔父さまと仲良くお過ごしくださいませ」 「そなたは、ほんに不思議な子じゃ。神の御子でありながら、神の森とは別の場所で生きようとするとは・・・・・・そなたは、自身の意思でしあわせを掴む力を持ち合わせているようじゃ。まさに神そのものじゃ。春樹と小夜も安堵しているであろう」 八千代は、微笑む祐里の頬に触れて何度も頷いた。 「お爺さま、私は、私らしく生きているだけでございます。光祐さまのお側に居させていただくだけで私は満ち足りてしあわせでございますもの」 「お爺さま、ご安心ください。わたしは、いつまでも祐里を大切にします」 祐里は、光祐と見つめ合ってお互いのしあわせを共有していた。 「今でもそなたを手元に置きたいと思うておるが、そなたのことは、光祐くんに任せよう。祐里、身体を厭いなさい」 八千代は、祐里を抱きしめて孫娘のしあわせを祈った。 帰りの支度が整い、別れの挨拶が終わると、冬樹の指し示した方角に満開の桜の大樹が現れた。 「優祐くんが植えた桜の樹だ。しっかりと神の森に根付いて瞬く間に大樹になった。北の地では桜は不吉とされてきたが、不思議なことに神の森に邪悪なものを寄せ付けないように守護してくれている」 冬樹は、優祐を見て大きく頷いた。 「冬樹叔父さま、どうぞ桜の樹を大切になさってください。来年の夏休みにまたこの森に来てもよろしいですか」 「いつでも、来たい時に来るとよい。ここは、優祐くんのお爺さまの生地なのだからね」 「はい。ありがとうございます」 優祐は、冬樹に向って喜びの笑顔で頷き返した。 「光祐くん、祐里を宜しく頼みます。祐里、しあわせにな」 冬樹のこころから春樹と小夜への怒りや恋慕がすっかり消え去り、父親のような大らかさで祐里を優しく抱きしめた。 「どうぞ、冬樹叔父さまも雪乃叔母さまとおしあわせにお過ごしくださいませ」 祐里は、冬樹の広い胸の中でそのしあわせを祈った。 夕日が茜色に輝く静謐な神の森で、冬樹が勾玉に触れると、桜の樹が虹色に輝き光祐たち四人を包み込んでいった。 気が付くと光祐たち四人は、緑が原駅に佇んでいた。列車到着の警笛が鳴っていた。 「もうすぐ列車が出るようだ」 光祐は、家族を急きたてて列車に乗り込んだ。 四人は、一晩中列車に揺られて、桜河のお屋敷へ到着した。 「おばあさま、婆や、ただいま帰りました」 優祐と祐雫は、無事に帰って来られた喜びに満ち溢れて、疲れも忘れてお屋敷の玄関に走り込んだ。 「桜、いつもありがとう。約束通り祐里を連れて戻ったよ。」 光祐は、優祐と祐雫の後姿を微笑ましく見送りながら、お屋敷と桜の樹をしみじみと見つめた。そして、家族揃って墓参りに行こうと考えていた。 「桜さん、ただいま帰りました。お蔭さまで無事に帰ってくることができました。ありがとうございます」 祐里は、光祐に寄り添って、しばらくの間、桜の樹を見つめていた。 光祐の胸ポケットに差し込まれた桜の花は、銀色の雫になって桜の樹に返っていった。 光祐は、桜の樹に導かれるように祐里を抱き寄せて、その柔らかな唇に口づけた。 この時、祐里のお腹には、二月目を迎えた嬰児が宿っていた。後に桜河里桜と名付けられる御子だった。 桜の樹は、深緑の葉を揺らして、祐里の帰りとまだ誰にも知られていない新しい生命の誕生を喜んでいた。〈桜物語・完〉