ある日、人生に「どうしようもないこと」が起きることがある。
あがいても、もがいても、変わらない現実。
そんな時、隣にいる人――長年連れ添った大切な人と、ただ黙ってその「どうしようもなさ」を見つめるだけしかないのだろうか。
認知症と診断されたのは、その静かな時間の中だった。
昔の私だったら、「認知症=すべての終わり」と思っていたかもしれない。
けれど、実際にその言葉が義兄の家に届いたとき、不思議と世界は終わらなかった。
朝はやってくるし、ごはんも食べる。笑ったり、ケンカしたり、散歩に出たり――そんな「普通」が、まだここにあった。