── 山崎社長と言えば無類のクルマ好きとして知られています。フェラーリに乗りたいと思ったのは、いつごろからでしょうか?
僕はフェラーリが特別好きだという感覚を、いまだに持ち合わせていません。ただ、高校のころ、サンフランシスコ郊外でホームステイ先の家族とドライブしたときに、後ろから迫ってきた 246GT(Dino) を見た瞬間、「レーシングカーが走っている!」と思い驚いた。その印象は今でも鮮明です。
ただ、当時の僕は V8を積んだコルベットやドラッグレースカー に憧れていました。スーパーカーブームが来るまでは、フェラーリの存在すら知らなかったですね。高校3年生のころ、「人生の成功とは何か?」を意識し始めて、ランボルギーニやフェラーリのある人生を想像するようになりました。
── それでも、実際にフェラーリを買われたのは、かなり後になってからですよね?
そうです。大学を卒業してサラリーマンになり、現実との乖離に気づきました。ただ、RX-7をはじめ多くの素晴らしいクルマ を乗り継ぐことはできました。夢としては、黒い328GTB に乗りたいと考えて、部屋に写真を飾っていましたね。
── フェラーリと言えば「赤」のイメージですが、黒を選ばれたのは?
僕の中のフェラーリは、赤じゃない んです。アメリカのカスタムカー雑誌をよく読んでいた影響もあるのか、一般的な価値観に強い違和感を感じていました。僕が思い描く 328GTBは黒 で、オフロード4WDのようなブッシュバーを備えた、アウトローで危険な匂いのするワイルドな仕様 でした。
── それでも、初めて購入したフェラーリは328GTBではなく、ルッソTでしたよね?
そう。フェラーリを買ったのは60歳を超えてからですが、フェラーリの王道であるV12やV8ミッドシップではなく、4人乗りのGTC4 LussoTでした。白いボディに大量のオプションが組まれ、豪華な赤内装のそれは、「いかにもお金持ち」といった感じでしたが、僕を喜ばせる要素は少なかった。
── それはなぜでしょう?
まず、フェラーリの市場には 左ハンドル車が圧倒的に多い。新車で右ハンドルも選べるのに、左ハンドルを選ぶ人が多いことに、違和感を覚えました。みんなお金持ちなのに、利便性を捨てて国際市場でのリセールを気にするなんて「よけいに貧乏くさい」 と感じたんです。
また、フェラーリ特有の ウインカースイッチ も「別にレバーでいいじゃん」と思いましたね。F1風の固定シフトパドル も、公道やサーキットでの運転には不向き。F1マシンでは、ステアリングをほとんど動かさないため、シフトパドルがステアリングポストに固定されていても問題はない。しかし、スポーツカーではステアリングを大きく回す場面があるため、固定パドルでは手の位置が変わってしまい、シフト操作が困難になる。結果として、ステアリングと一緒に動くパドルの方が、よりスポーティーに直感的に操作できる。結局、ルッソTはサウンド以外に魅力がなく、わずか数ヶ月で売却しました。
── それなのに、またフェラーリを買ったのはなぜですか?
328GTBのイメージが忘れられなかった んです。ターボ車のパワフルさも理解していたので、HV化される前の最後の純エンジンV8ミッドシップであるF8トリブート を選びました。右ハンドルでもあり、現車のイメージは凄くまとまっていましたので、赤色のボディや、ウインカースイッチ、固定式シフトパドルには目を瞑る事にしました。しかし、実際に僕のガレージに納まると、赤色にもの凄く違和感を感じた。
── 赤のフェラーリに対する抵抗感ですか?
そう。嫌なイメージの「フェラーリの仲間」になってしまったような気がして、全然乗りませんでした。通勤では使っていましたが、それ以外では4か月で給油1回、近隣を2回走った程度です。しかも、アクリル製のエンジンカバーのせいで後方視界が歪み、覆面パトカーを認知できない。こんな設計のクルマはゴミだと感じました。
── そんな中で、F8スパイダーを選んだ理由は?
毎日中古車サイトを巡回していて、出会ったんです。高校生の頃感動した 246GTや328GTB も選択肢にありましたが、クラシックカーは遅いし、壊れる。部品の入手が困難で、修理に数年かかることもある。そこまでの時間と情熱が自分にあるのか?と考えました。
そんな中見つけたのが、右ハンドルで鮮やかなブルーのF8スパイダーでした。奇をてらわない黒基調の内装に、ボディカラー同様に仕立てられたステッチやライン、刺繍などの特注を含む1200万円のオプション群が、僕の目を惹きました。
フェラーリのオプション価格1,000万円超えは珍しくない?
フェラーリのオプション価格が1,000万円を超える車両は、それほど珍しいことではないです。フェラーリは、内外装を問わず多くの箇所の色や材質をオプションとして選択できます。つまり、世界で唯一の構成のフェラーリを手にすることができるのです。しかし、その選択肢はあまりにも幅広いため、デザインに対して明確なコンセプトを持っていなかったり、普段からデザインに携わっていない人にとっては、なかなかの難問となってしまう。
さらに、高額商品を買ってくれる顧客に対して、担当セールスも気を使う。うっかりアドバイスをして購入契約が取れなくなるリスクを避けるため、あえて意見を控えることも多い。その結果、高額オプションが組まれたクルマの多くは 「売却時の査定価格を意識した無難な選択」「できるだけ豪華(高価)に見せるための選択」「派手さを求めた結果の“やらかし”」 のいずれかに分類されることが多い。
言葉を選ばずに言うならば、「高額オプションが組まれたフェラーリの多くは、ダサい。」ということになる。
しかし、このF8スパイダーは違った。僕の感覚と、ほぼ100%マッチしている。
もし僕に潤沢な予算があり、新車をオーダーする機会があったとしても、間違いなく選んでいたであろうクルマと出会えたことに、素直に感謝したい。まあ、毎日中古車サイトを巡回していたことも、この出会いの一因ではあるのだけれど。
「クルマを買って嬉しい」なんて感覚、久しぶりだ。
資産価値を目的とした車は空虚で、乗れば価値が減るし、乗りたいとも思わない。期待した性能を感じられなければ失望する。しかし、このF8スパイダーには、久々に「しばらく乗りたい」と思わせる要素が満載だ。フェラーリをずっと小ばかにしてきた僕でさえ、そう感じてしまうマシン。クルマのステアリングを握る事を、素直に嬉しいと感じる事ができるなんて、久しぶり過ぎてなんだか新鮮な感覚だ。
仕事への意欲も倍増するし、通勤時の気分も爽快になる。実際に成功者たちと語らう事も増えるかもしれない。これからどんな時間を過ごせるのか、少し楽しみになっている。僕にとってのフェラーリは、ここで一つの答えが出た気がする。