自分が嫌いになった時 どうにもこうにも立ち上がれない でも自分が嫌いになった正直さは けして悪いことではないと思う ひとりでないという証拠だ あれもこれもそれも 敏感に反応してしまうが 無理に自分を好きになるよりも 嫌いな自分に慣れながら
この環境はいつまでも変わらないようだ それなら陸に上がることもないか やめよっ、居心地いいし ずっとこの姿で生きてゆこう 笑う奴もいないし おおっ、海底にあるコイツはなんだ 硬くて見たこともない感じだな SPAMって書いてある なんじゃこりゃ まあ、俺たちには関係ないか
ひとに意見を言うのは難しい 自分の伝えたいことと 伝わることが違ったりする どれだけひとを理解しているか どれだけ自分を理解しているか ひとと自分がいれば社会ができる お互いの気持ちが わかり合った社会がいい ひとのために自分のために 勘違いされ勘違いしながらも 意見を言い続ける
中学生の時 ストレスで髪が白くなり 美容室へ染めに行った 待合室にはファッション雑誌が並ぶ中 『ぼくは12歳』という本があった 表紙に「ひとり ただ くずれるのを まつだけ」 と書いてあった 自分も12歳で詩を書いていた 中を開かなくても分かった 美容室でその本を借りて帰った
自動販売機で使えない 100円玉があった 数字の左右にシマシマ模様があり 丸みのあるデザインで好きだった 自動販売機の表示に この100円玉は使えません と、絵にバツがつけられ いつの間にか消えた100円玉 そんな話を休憩時間にすると いつの時代ですか、と言われた……
まだ暗い空気に白い息が逃げる 指先、足先、首筋から冷気が握り始め 頸、腰へと私の弱い所へ進む 今朝の励ましは何処に落ちているだろう 昨夜、小説家が愛国精神を持ち政治活動の末に 自決する映画を観ていた 空白な疑問と後味の悪さを引きずり 車窓から薄明るくなり始めた光と陰を追う 子どもの頃、戦争の話を聞かされた翌朝のように 強制された重い苦味を覚える エスカレーターで下り滑って行く 銀世界のスキー場のゲレンデには若者がポーズ 宣伝ポスターに気を紛らせながら思う 私は国を愛したことがあるだろうか
元住吉に親戚がいた おばちゃん、兄ちゃんが三人、姉ちゃん二人がいた 私は子どもの頃、電車に乗って おばちゃんのアパートへよく遊びに行った おばちゃんはいつも内職をしていた 子どもが五人もいて その指を触るとゴチゴチと皮が厚く 私は子どもだったが凄いひとなんだと思っていた 一番上の兄ちゃんは 小学生だった私にパチンコを教えてくれた 左手から玉を流し天釘の狙う場所まで 公共賭博の英才教育を受けた タバコをくわえ龍のスタジャン着た 兄ちゃんと歩くとひとが避けて行った 二番目の兄ちゃんは いつも紺色のジャージとTシャツを着て体育会系だった 近くの高校へ行くと高鉄棒にぶら下がり 兄ちゃんが懸垂をすると筋肉が凄かった 私がグライダーで鉄棒から飛ぶと 兄ちゃんは片手で遠くに飛んでいた 三番目の兄ちゃんは 神経質で胃が弱くよくお腹をおさえていた 土日に映画館でアルバイトをしていて 無料券をくれるので映画を観に行くと コカコーラを奢ってくれた 怒ったことのない優しい兄ちゃん 一番上の姉ちゃんは なんだかお母さんみたいで 仕事と家事で毎日が忙しそうだった 分厚いレンズの眼鏡をしていて 博学だし姉ちゃんの言うことはみんな反論しない そしてすでに一家の大黒柱だった 二番目の姉ちゃんは なんだかいつも化粧の匂いがしていた 姉ちゃんに遊んで欲しかったけど 家にいることが少なくあまり遊ばなかった だけど雨の日にアスファルトの上を 裸足になりふたりで歩いたのがとっても楽しかった 狭いアパートにみんなが暮らしていた 一番上の姉ちゃんと兄ちゃんだけが 父ちゃんを覚えていると言っていた 突然に父ちゃんは家を出て行ったらしく それっきりだったと言う 悔しい思いをたくさんしてきたと思う だけど歯を食いしばりみんな頑張って 笑顔を絶やさずに賑やかな おばちゃんの家が好きだった 狭くてごちゃごちゃしていたけど 楽しい想い出は今でも私の宝物である
痛みもなく 寒さ暑さもなく 雨に打たれていたい 天から溢れた斜めを 身体に響かせ 微笑む感性のまま できることなら 元の場所へ 連れて行って欲しい 仮想の逃避が癒して 感じたい雨 傘を閉じる 冷たく痛い粒たちが 追いかけて来た