「平成の毒婦」と呼ばれて
※かなり削ぎ落としたのですが、なかなかの長文になりました💦お暇つぶし程度にお読みください🤲
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「毒婦。」(北原みのり 著)、やっと読み終えた。1年以上かかった。私が遅読であることは否めないが、テーマが重かったのも理由の1つだろう。続きを読むことが非常に重かった。
(別の小説は数ヶ月で読み終えた…)
木嶋佳苗。「平成の毒婦」と呼ばれた女。
木嶋佳苗とは、2007〜2009年にかけて発生した、首都圏連続不審死事件(婚活連続殺人事件)の被告。2012年死刑判決。2014年控訴棄却。2017年上告棄却、死刑確定。現在は、東京拘置所に収監されている。
何故、私が今になって木嶋に興味を持ったかというと、とある知人女性が木嶋と類似性があるのでは?、と思ったからだ。
(知人女性は犯罪は犯してはいないだろうが)
“男に「養われる対象」であることに疑問を持たず、論理的思考より好き嫌いを判断基準に、相手の男にあわせることで楽な人生をかちとっていく(中略)”
これは、木嶋の著書である自伝的小説「礼讃」について、「ダ・ヴィンチ」という雑誌が書いた書評の一部である。この書評をネット上でたまたま見かけた。これは、知人女性そのものもよく言い表している。
私は検討の結果、「礼讃」ではなく、「毒婦。」という本を読むことにした。全36回に及んだ木嶋の公判のうち、35回を傍聴したライターが書いたものだ。
事件発生当時、私は事件にあまり関心がなく、記憶からほとんど消えていた。当時、世間の一番の関心事は、34歳の木嶋がいわゆる不美人、肥満体型であるにも関わらず、なぜ多くの男性が騙され、総額1億円以上もの大金を貢いだのか?、だったようだ。そして、うち3人の男性が木嶋によって殺害されたとされている。
読後の所感としては、木嶋のことも、この事件のこともほとんど理解不能ということだ。また、木嶋と知人女性は確かに類似点はあるものの、良くも悪くもスケールが違い過ぎる。
以下、木嶋の特性として気になった点を5つ挙げる。
【①男性心理を巧みに操る】
木嶋は、介護の仕事をし、料理学校に通い、ピアノの講師をしていると男性には語っていた。男性に対し怒りや嫉妬などの感情を見せることなく、彼らの全てを受容し安心感を与え、「虚構の世界」へと誘う。また、男性が求める女性像を演じることで疲弊している様子は、全く見えなかったという。
それは、男性を完全にカネを引き出すための「商品」「道具」として捉えていたからではないだろうか。冷めきった目で、この本の表紙イラストのように嘲笑っていたのかもしれない、男のことを。そして、女のことも。
【②「売春」に対するハードルが極めて低い】
木嶋は18歳で北海道別海町から上京、某社に就職したが、3ヶ月で退職。デートクラブで売春を始めた。そのことが、やがてこの大事件へと繋がっていく。
自らの体を売って金銭を得るという行為は、何もこの時から始まったわけではなかった。著者は、木嶋の出身地である別海町まで取材に出向いている。木嶋が小学5年生の頃、彼女の周辺に性的な噂が出てくる。小さな町で、「妊娠」「大学生」「お金」などの言葉が飛び交う。木嶋は不良少女ではなく、成績も良く、きちんとしていた。しかし、その手の噂は木嶋が上京するまで絶えなかったという。
多くの人は学校卒業後、企業で働くなり自営するなどして生計を立てるものだが、安易に売春を行う。こういう女性は、少数ではあるが一定数存在すると思う。現在は「パパ活」などと称し、よりライト感覚にもなっている。しかし、小学生からって…。木嶋の家庭環境はかなり複雑だが、経済的には恵まれた方だった。何故そこまで金に執着する?この事件でも、たやすく大金を得ようとしたことが、そもそもの元凶…?って。いや。もうわからん。この点についてはこれ以上の言及は避ける。
【③文章力が高い】
木嶋は、男性達とは婚活サイトで知り合うが、まずはメールのやり取りからスタートする。木嶋は文章力に長けていた。そして、男性心理の操作も得意だから、メールのやり取りだけで恋に落ちてしまう男性もおり、一度も会っていないのに約80万円振り込んだ人もいた。そして、前述のとおり、逮捕後に自伝を出している。
高い文章力も大人になってからの話ではない。小学4年生の木嶋の読書感想文の書き出しである。
“一冊の好きな本を選びなさい。と言われたら「シュバイツァー」を選び、また感想文を書きなさい。と言われたら「シュバイツァー」を書く”
これが小4の読書感想文?小学生の読書感想文と言えば、「ぼくは・・・と思いました。」、「私は・・・と思いました。」というセンテンスのオンパレードが定番だったように思う。(私も然り) ってか、シュバイツァーって誰?
【④動じない、堂々としている】
木嶋は公判中、終始堂々としており落ち着いていた。あまりにも冷静で、抑揚のない返答に、尋問している検事の方が熱くなり、声を荒げるほど。子供の頃からどこか大人っぽく、感情的になることはあまりなかったという。
【⑤滑稽さが漂う】
著者によれば、3名の方が亡くなられ、多額の金銭が詐取され、世間を騒がせた大事件にも関わらず、どこか滑稽さが漂うという。例えば、木嶋は胸元が大きく開いたニットやフェミニンなスカートなどを着用し、意外と美肌で美声だったらしい。被告人なのに、法廷で優雅さを演出?事件当時、報道でよく使用されていた写真のイメージとは随分違ったようだ。
2012年4月13日、木嶋に死刑判決が言い渡された。
誰もが、どうしても割り切れない何かを抱えながら生きていることだろう。性(さが)、業(ごう)とでもいうのか。木嶋のそれは、どうしようもなく大き過ぎて、自分で自分を制御出来なかったのではないだろうか。能力、才能の活かし方を間違えなければ普通に生きれたかもしれない、と言う人は多いだろう。しかし、木嶋佳苗という人間は、初めから破滅するために生まれてきたのではないか。
…と、あれこれ分析したところで、この人のことは全くわからない。そもそも、わかろうとしたことが間違いだったのだ。
48歳になった木嶋は、現在も東京拘置所で暮らす。死刑執行は予め知らされることなく、執行当日の朝に告げられるという。今頃、木嶋は何に、誰に、思いを馳せながら眠りについているのだろう。
(完)