定年退職して年金生活。
朝の光に背中を押されるように、私は今日もプールに向かう。
始まりは、体力維持のためだった。
でも、今ではすっかり生活の一部。
泳ぐというより、水に浮かび、なじみ、前に進む。それが私のルーティンになった。
チャレンジしているのは「シニア向けの2ビートクロール」。
技術的には決して難しいものではないが、体の使い方、リズム、息継ぎ——どれも思うようにはいかない。
「上達したな」と思える日は少ない。
だが、ある時、ある言葉に出会った。「小さな一歩を見える化」
「ゴールを決めて、それに向けて進み始めたら、そのために実行したことを記録に残しておきましょう。」
私のゴールはスピードではない。
いいフォームで水面を滑りたい。
となりのウォーキングコスの人が
「きれいな泳ぎ方をしていますね」と言われた。
そのまた隣のコースで青年がバタフライで泳いでいる。
ほんの数行ノートに記録している。
記録をつけるという行為そのものが、私の中で「前進の証」になるだろう。
今日もページを一つ、めくる。
そしてまた、新しい小さな一歩を記す。
水の中の時間が、確かに、私を育てている。