最近、世界的にも高い技術を持つ体外受精・不妊クリニックにおいて、
胚移植(人工的に受精卵を子宮内膜に移植する)
を何回行っても妊娠反応すらでない患者さんが
時々受診されています。
このような場合、受精卵の問題ではなく、
子宮内膜環境の問題であるケースがあるからです。
医学的には、 「着床障害」 と言っています。
受精卵は酵素を出して子宮内膜の細胞間の結合組織を溶かし、
子宮内膜内に侵入してきます。
この過程で、 「TGF-beta」 という物質が多すぎると、
その結合組織がケロイド的に硬くなって侵入を妨害してしまいます。
また、
侵入してきた胎児細胞は爆発的に分裂増殖する必要がありますが、
その分裂を調節する 「M-CSF」 という物質が少なすぎると、
十分に増殖できなくなってしまいます。
さらに、
胚移植後に過剰な緊張状態の中で日々、妊娠判定を待っていると、
アドレナリンの分泌過多により、
「NK(ナチュラルキラー)細胞」 が異常に活性化して、
胎児細胞を攻撃してしまいます。また、
その心理的ストレスが子宮内の 「らせん動脈」 を収縮させて,
胎児細胞への栄養補給を細くしてしまいます。
このように 「着床障害」 を不育症のひとつの形と考えれば、
それに適応した予防治療により、
有意な治療効果があると感じています。
「くりかえし流産を経験して、人格が変わりました」
「お盆やお正月にみんなで集まることが恐怖です」
と涙ながらに訴えていた患者さんがみえました。
それほど精神的に追いつめられていたのです。
一刻も早く妊娠したい、過去の流産を忘れたい、
早く普通の結婚女性に追いつきたい、
しかし妊娠することが怖い。
妊娠反応が陽性になった直後は喜びを感じますが、
その直後から、お腹が張るように重い、チクチク痛い、
などの軽い症状を感じていませんでしたか。
妊娠のごく初期の場合、子宮の収縮はほとんどないと思います。
違和感の原因は交感神経系の過剰な緊張によるものかもしれません。
これは危険なサインです。
過剰なアドレナリン分泌により、
子宮内の 「らせん動脈」 が収縮してしまうと考えられるからです。
子宮内の 「らせん動脈」 は、
胎児にとって正に 「ライフライン」 「生命線」 なのですから。
春先に妊娠した場合、初夏の妊娠に比べて、
流産する女性がやや多いように感じています。
流産発生率に季節差があり、
秋あるいは冬に妊娠した場合、統計的に有意に多く流産している
という研究論文が複数ありますが、
私見としては特に春先が関係しているように思います。
春先はアレルギーの季節でもありますので、
アレルギーにより免疫異常が誘発されます。
それにより、
拒絶の免疫異常であるナチュラルキラー細胞活性亢進による流産、
あるいは、
自己に対する免疫異常(自己抗体)の抗リン脂質抗体陽性による流産
が、より多く発生しているのではないかと感じています。
日々の臨床現場にて、米粒ぐらいの小さな命の鼓動をみて、
いつも何か神秘的な感動におそわれます。
「ああ、よかった。まずは心臓が動き始めましたよ。」と。
これが生理予定日より約2〜3週間過ぎた時点での第一の壁と感じています。
さらにここから約4週間を無事に乗り切れるかどうかが第二の壁です。
もし第二の壁も乗り切ったならば、
あかちゃんは約3cmの大きさに成長しており、
運命的な流産(染色体異常による流産)の可能性は
ほとんどなくなっていると考えています。
このあかちゃんの運命については、ただただ無事を 「祈る」 しかないのです。
(写真はラウル・デュフィ、当院診察室にある絵より)
- ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
ログイン
- まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
新規ユーザー登録へ