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Justice

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03/26/2022








春休み明け。同僚のひとりが出勤せず、そのまま退職した。
退職届(2 weeks noticeと言われる)なし、とのことだった。

驚いた。

が、わたしの相棒は「予感があった」と言う。
ー遅かれ早かれ、そうなるんじゃないかと思っていたよ。


彼女のことを以前に書いた。
わたしは学習しないようで、あの後も何度か同じことが繰り返された。
その度に、あぁまたやっちゃった、とか、むぅー気分悪いなーもう、とか、相変わらず不機嫌だわ、とか思いながら、やり過ごした。
相棒からは、ディアナ(仮名)がやって来ると目線で(m, DO NOT SAY ANYTHING!)合図されたりもしたが、顔を合わせても「自然に無視する」なんて器用な技は持ち合わせていない。それに、そういうことをする自分をとても邪なものに思える。
No, it's not, IT"S JUSTICE! と言う彼に、わたしは思わず吹きだしてしまった。彼は笑っていたが、冗談じゃなくて本当にそうなんだよ、と付け加えることを忘れなかった。
その時、人にはそれぞれ付き合いかたというのがあるんだな、と思った。彼には彼の、彼女には彼女の、そしてもちろん、わたしにはわたしの。どれが「正しい」というものでもなく、それがその人の「らしさ」「best」ということなのかもしれない。


わたしはしばらく、その「正義(或いは公正)」について思案した。
最初は面白い発想だなと思った。目には目を(Eye for an eye)ということか。すごいな。アメ人らしい発想なのか?
でもーふと思い立って、彼に言った。戦争って、双方が「正義だ」って言ってるんだよね。
彼は、うーーーん、と唸って、それから、そうだね、と答えた。
まだ、ロシアがウクライナに侵攻していなかった頃のことだった。



ディアナは働き者だ。怠けることを嫌う。仕事も早い。与えられたタスクを時間内にこなす。時間内に終えられない場合にはしっかりと引き継ぎを行う。そして、自分の仕事に誇りを持っていた。

なのに、どうして辞めちゃったんだろう、、、
相棒は納得していたけれど、わたしには今ひとつ、わからなかった。2 weeks noticeもせずに辞めるなんて、こんな辞め方をするなんて、彼女はそういう人じゃない。


春休みに入る直前の金曜日。この日、ディアナは酷く憤慨していた。
出先から戻ってきた後、休憩も取らずにオフィスで長い時間、マネージャーと話し込んでいた。珍しい光景ではなかったので、そんなに気にも留めなかった。また何か嫌なことがあったのだろう。

あの日、彼女は真っ赤な顔で怒っていた。今にも卒倒してしまうんじゃないかと思うくらいの勢いだった。けれど、オフィスのドアは閉められていたので、声は聞こえなかった。ただ、彼女が硬く握り締めた拳でデスクを何度か叩いているのが見えた。それでも、そういう光景は珍しいものではなかったので、そっとしといてあげよう、くらいにしか思わなかった。


仕事を終えた後、ロッカールームへ行くとディアナが先にいた。思いがけず、わたしとディアナの、ふたりきりになった。一瞬、はちゃーと思った。でも、そういう気持ちを拭って、Have a good spring break, D! と、声をかけた。ロッカーのドアに手をかけていたディアナは、そのままの姿勢で5秒くらいか、何も言わなかった。
シーーーーーーーーーーン
ああああああ、、、、
酷く、気まずい雰囲気、、、、、ディアナ、と、彼女の名前も口にしたので、自身に向けられた言葉だということは明らかな筈。なのに、ここで無視?マジ???
永遠にも感じたこの5秒ほどの間、わたしの頭はぐるぐる。。。。どうしたら良いものか。。。

それからディアナは、ふぅーっと大きな、そして長いため息をついた後に、
Yeah, I guess.
そう言って、片手を振りながら出て行った。わたしは呆気にとられて、しばらく彼女の後ろ姿を見ていた。心がぎゅーっと苦しくなった。そして、忘れよう!と、自分に言い聞かせた。気にしない、気にしない!気にしたって、何も始まらない。



ディアナが退職してから数日がすぎ、その間、少しずつ状況が見えてきた。
簡単に言ってしまえば、あの日、ディアナの堪忍袋の緒が切れた。出先でのことだ。
別の同僚が、ディアナの代理で出向いた際、そこのスタッフから聞かされた。具体的には分からない。でもその言動は明らかに「行き過ぎ」だったらしい。
ずっと抑えていたものが、もう抑えきれなくなったのだろう、我慢に我慢を重ねていたことが、もうどうにもならないくらいにまでなっていたのだろう。

堪忍袋の緒が切れる、とは、よく言ったものだ。



今になって、思う。
あの、ディアナのわたしに対する仕打ち(?)は、彼女の憤懣を、少しずつ外に出していたものなのかもしれない、意識的に。或いはもしかしたら、憤懣が外に漏れ出てしまったのかもしれない、無意識的に。

そして、わたしには何かが欠けていた。
それはきっと、「親身になる心」というもの。もし、親身になっていたら、どうにかなっていたか?どうだろう?相手にされないかもだけど。でも、わたし自身、相手にしなかった、彼女のことを。触らぬ神に祟りなし。冷たいものだ。邪には邪でなく善良な何か、とか、関わろうともしない自分に出来ることではなかった。愛の反対にあるものは憎しみではなく無関心。マザーテレサはそう言った。そうだ、自分は傍観者だった。


堪忍袋の緒が切れちゃう前に、何かが出来たのかもしれない。ディアナはその憤懣をもっと小出しにして表出すれば良かった。さらに、発散させる方法が別の何かであればもっと良かった。そして周囲の人間は、彼女のことをもっと気にかけるべきだった。こんな形でのお別れは淋しい。そして、悲しい。


ディアナと一緒に仕事をしたのは5-6年だと思う。同じステーションではないけれど、毎日、顔を合わせた。パンデミックの最初の年の夏には一緒に仕事した。うちの職場からはわたしとディアナのふたりだったからか、そういえばあの頃は良く話す仲だった。

とても激情的な人だった。
いつも何かに怒っていた。
そして、自分の仕事に誇りを持っていた。
without 2 weeks notice は、彼女自身の「正義」なのかもしれない。

正義は、いったい何をもたらすのだろう。














#日記

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nikkinico
nikkinicoさんからコメント
投稿日 2022-03-29 08:17

ああ・・ものすごく分かります・・・
私も「愛の反対にあるものは憎しみではなく無関心。」の部類に入ると思います。
親しき仲にもなんとか・・じゃないですけど、どこまで踏み込んでいいのかの判断が出来ず、結局「無関心」になってしまっている感じです。
「同僚」とか「友達の友達」とか微妙な関係の方は特に難しいです。ずかずかと聞ける人とか、すぐに声をかけてあげられる人は本当にすごいなーと。

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m_a
m_aさんからコメント
投稿日 2022-03-30 06:23

nikkinicoさん
そうなんです、職場の同僚という関係だと、どこまで踏み込んで良いのか悩みます。
家庭の事情とか、わたしはあまり聞けないのですが、そういう混みいった内容でも普通に聞ける人、確かにいますね。そして、聞かれた側も普通に答えてたり。結構、センシティブな内容だったりして、えっそんなことまで話しちゃうの!?と内心びっくりしたり。(^^;
そういう話が聞こえてきちゃった時、わたしは仲間に入って一緒に聞いたり話したりが出来ません。向こうから「聞いてくれる?」と来たら、また別なんでしょうけど、、、日本人だからでしょうかね?野次馬根性?のように思える。←この時点でもう邪な感じー

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