暮れゆく車窓のスペース 自由が紅く染まれば どんなくだらない一日も 許せる気がして見つめている 行き先のない夜は 何も持たずに彷徨うがよい 偶然のエピソードなんて要らない ただ誰にも邪魔されず 歩くことさえ出来ればそれで 曖昧な時間が壊してくれるさ 巻き込まれたい 冷たい風を感じながら 言葉は煩わしくて 虚しい夜空の向こうの向こう 気づかない振りして 一番星はポケットの中にしまい 呼んでいるのは揺れる葉の鈴 なるべく空白に寄り添うスマイル こぼれ落ちるクレイジー 静かに見惚れている吸収の月
かなりお待ちになると思いますが…… 三時間待ちの受診 予約なしなのだから仕方ないか 耐えられる病状だし 高校生の時 電車を待つのに五分がとても長く感じていた 時計を見ても時間はさほど進まなくてイライラ 退屈が苦痛で仕方ないかった 今はおじさんになってこの退屈加減がなかなか良い 無駄に時間が流れている感は否めないが それでもボッとすることが上手になり イライラはしなくなった 受付に暫く外へ出ていることを伝え 病院近くの公園でパンを齧る ヨレヨレののら猫ちゃん登場 遠くからこちらを見ている iPadで詩を綴って顔を上げると んっ なんだか近づいている気がする ダルマさんが転んだ 視線を液晶画面から猫ちゃんに向ける んっ もっと近づいている 眼の周りが少しただれて 耳が少し欠けているが上品に座っている ああ このパンが欲しいのだね のら猫に餌をやるな という人もいるけど自分の腹を満たすより 静かだけど必死で生きている情に揺さぶられる ほれっ 匂いを嗅ぎ舐める 大丈夫だと決断しゆっくり食べ始め完食 そして パンがあったレンガのところを舐める ほれっ パンを追加するとまたパクパクと食べ完食 のら猫ちゃんは静かに待っている もうないよ 手のひらを見せたら 少ししか開けれない眼を閉じて わかりました そう言っているのだろうか 私はまた詩を綴り始めた そして チラッとのら猫ちゃんを見ようとしたら もうどこかへ行ってしまったようだ さあ もうひとつ詩を綴ろう そうだ のら猫ちゃんとランチした マッタリ感のある作品を仕上げてみよう
さあ行くんだ 薄汚れた後悔なんて脱ぎ捨て 僕らは涙ばかり流しても 何も始まらない そりゃいろいろある訳で お前に何がわかるのさ そう叫びたくもなるけど 落ち込むために 僕らは生きている訳ではない さあ行くんだ 輝ける思想を殺さないように らしさの究極の君を見せてくれ 待っているよ 何もせずにグズグズした姿 センチメンタルになって 喜んでいるスタイルは 自分すら歓迎してないからさ さあ行くんだ 薄汚れた後悔なんて脱ぎ捨て 僕らは涙ばかり流しても 何も始まらない さあ行くんだ 嫌いな自分なんて炸裂させる そんな君を僕らは歓迎さ
アメリカでは賞賛を浴びたが 日本へ帰国すると作品は相手にされない そのことで悩み自殺未遂を繰り返したという 認められない苦しさと闘ったのだろう でも如何してそうなるのだろうと 芸術は奉仕 見返りを待つことに疑問が生じる 表現することへの 純粋が欠けているように思えるが 偏っているのは私だろうか……
僕はエネルギーをもらいに行く それも上質のものである 自然よりもっと感情にググッと 入って来るのだから楽しみだ 個人的な意見なんだけれどね 芸術ってのはググッと来て スコーンと打たせてもらうんだ 長嶋茂雄みたいなこと 言ってみたいだけどそんな感じ あの色を観に行くんだよ あのカタチを観に行くんだよ たまたまその芸術家が昨日 テレビに出ていたんだよ 表現は溢れるが時間がない 死んでも絵を描いていく みたいなことを言っていた 僕も最近は限られた時間を考えると 詩を書く時間が足らないと 思っているから共感したんだ そんな訳で矛盾しているけど 詩を書く手を休めて 六本木に赤毛の芸術家から 元気をもらいに行くんだよ わが永遠の魂を観に (写真フリーを添付)
求めてゆく 進むべき簡単な此処から 仕懸る時 複雑な心情では進まない 解りやすい言葉をひとつ決める 人生の題目を 溢れ出る発想をその言葉にのせ 限りある時間を表現し費やしてゆく 決めてしまえば良い 理想の言葉を想像した時 何の違和感も生じないのだから 心情にシックリと合致する 簡単な言葉の先に進むべき場所がある
ベランダの手すりの上 飼い猫が外を眺めている 何を見ているのかわからぬ瞳 少年が考え事をしているように 時間さえ止めてしまう魔法 忘れていた冒険という言葉を秘めて あんたは変わった子だね よく近所のおばちゃんにいわれた 少年時代はとても自由だった 電柱を抱きしめると落ち着いた 近所の電柱に耳をあて グルグルと音が伝わるのを 何時までも聞いていた 電柱を抱きしめる旅へ行こう 自転車を漕いで漕いで雲を追いかけるように まだ知らぬ電柱を求め 車の通りの多い所 怒っているかのように唸る電柱 田んぼの横にある電柱は グーグと寝息をたてて眠っている 海岸沿いの風が強い所 シュウシュウと早く帰りなさいと叱る電柱 みんな違う電柱の言葉が聞けた 少年時代は電柱と会話することも出来た 今はどうだろう ひとの言葉さえ怪しく思えて 恥も外聞もなく 大人になった私は電柱を抱きしめたくなった そして抱きしめた あんたは何も変わっていないよ そんな言葉が聞こえ 僕らしさを思い出すように グルグルと伝わる音を何時までも聞いていた
次は上山田、上山田 本日、雨のため傘のお忘れ物がたいへん多くなっております お降りの際は手元の傘をお忘れないよう願い致します 次は上山田、上山田 改札を出る 此処へ来る日は必ず雨が降っている それは雨の日にわざわざ此処へ来るからだ 恋人に会うためである ただ彼女はもうこの世のひとではない この場所と雨は未練を緩和する 公園のベンチには雨の吹き込まないほどの屋根がある 銅板が重ねられた屋根には 雨粒の音がひと粒ひと粒しっかりと響いている 膝を寄せ合った想い出 今は雨が好きだった彼女の温もりはない 霞んで見える木々 肩を落としたような心情で共感を得る 潤った土からは想起の匂いがして 面影を追うことに癒されてゆく 心象に彼女を再生してゆく雨 想い出の中だけで時間を過ごし 日々の哀しさを忘却させ 頬が緩んだ顔が水たまりに映る 雨が降れば此処に来る 哀憐に触れようと面影を追いかけてしまう
誰も居ない実家の玄関を開ける こもった空気 引っ越してきた当初の材木の匂いがして 四十年前がすぐそこにある不思議 母は故郷の山形に帰郷 私は頼まれた部屋の換気と庭に水を撒く すでに庭には水が撒かれているようだ 近所の親切で潤っている花や木 有り難い思いに感謝して 横になると心地よい風が抜けて 近づいては遠ざかる電車の通過する音 身体は床に溶けてしまいそうだ そろそろ戸締りをして帰ろう 母のいない実家はもの足りない 父の位牌に手を合わせ また来るよ そう言って戸締りをしながら 母の書き置きをもう一度読むと 「申し訳ない」と言う言葉が 「申し沢ない」と書かれていて クスっを実家に置いていった