- 命日 - 林の中では すでに線香が焚かれ 花に囲まれた彼は 照れ笑いをしていた お互いに 「献杯」とビールを飲む 私は 「俺はまだ死んでないよ」と 彼のひょうきんな性格は あの世にいってもかわらない 生前に静かなところで 眠りたいと言っていた彼は 林の中で暮らしている
どっこいしょ ほんだなから ほんがぬけない うんとこしょ どっこいしょ みなさん ちからをかして じいさん はなをさかす ばあいじゃないよ ちからをかして ねずみさん りょうりはあとで ぐりぐらね ちからをかして うんとこしょ どっこいしょ うんとこしょ どっこいしょ おおきなほんが ぬけました
切り裂いた 痛たむ身体で 心地よい風に 疑い進む 不安な足どり 剥がれない衣 軋み丸まり 固まる心 義理の山は 高くなるばかり 世間は大きく 己は小さく 課せられ遂げた 桜吹雪の有終 降るために 昇れと囁く
壊れた腕時計をポケットに入れ 頬のアザが歪んだ微笑みの意味は 居場所の見つからないあきらめ 初めて知った生きている意味の曖昧 インチキ夜空の向こう側を見つめようとして それでも空き缶の転がる夜の街で やっと出会った同じ匂いの君 交わす言葉は傷口の痛みを分け合う 恋にはほど遠いふたりが愛に触れる 日は明けてしまう複雑に狼狽え 苛立を目覚めさせながら光りに埋もれ 背を合わせふたりの距離は離れて 理屈を語る世間を説得できるのか ポケットから取り出した腕時計 草臥れ動こうとはしない自分のようで また君を求めてしまうのだろう
運動公園の片隅で ベニヤ板を曲げるように ひびが入らぬ程度の 痛みを味わうストレッチ 競技場の中では 高校生が美しい筋肉を 輝かせて走っている 瞬発力と持続力 ないものねだりを横目に コルセットをきつく締め付け 靴紐をやっとの思いで 強く結び直し 外周を走ってみた 足、腰、頸、腕は大丈夫だ 頭が痛いのと息が とてつもなく苦しい呼吸 一キロメートルがとても長い 学生の頃には馬鹿にしていただろう 運動量がすでに猛特訓だ 桜が散り始め新しい葉が 青々と時間の流れをみせ それは新たなるスタートでもあった 肩に落ちた花びらと共に走り終え タイムは六分九秒 明日に繋がる気がしていた
六十八の職人が 生涯最後の仕事として 持病に耐えながら オリンピックの聖火台 鋳型を完成させる しかし、翌日に鋳鉄を 流し込むと鋳型は大破 その職人は床に伏せ 帰らぬひとに 無念を晴らせと息子ら 納期直前に完成させた 受け継がれた魂の聖火台に けして消えない炎が立った
胸のポケット キャップが外れ 赤マジックのインクが漏れ 滲んでは刺されたようだ 軋む現場に重たい身体 ほこり舞う先の知らぬ解体 時代に取り残された 流行の成れの果て 我も崩れそうな身体で バーベルを掲げ 壊れゆく惻隠の赤が広がる
僕らは始まり方も 教わっていない自由がある 僕らは終わり方も 教わっていない自由がある 残酷な自由が不自由を叩く 優しさが不自由を抱く 僕らは呼吸の仕方も 教わっていない自由がある 僕らは歩き方も 教わっていない自由がある 残酷な自由が不自由を叩く 哀れみが不自由を抱く 僕らは始まり方も 教わっていない自由がある 僕らは終わり方も 教わっていない自由がある
爪を噛む夕暮れ時に 僕は水たまりを歩く 水たまりは空を歩き 空は水たまりを歩き 水たまりは僕を歩く 幻は赤に染まり笑う 終わりたい瞳の過去 あるものは越えずに ないものばかり光る 始まらない瞳の未来 粉々にされた夕暮れ 月から垂れた操りの 縁取りだけある心で 僕は水たまりを歩く 水たまりは僕を歩く
なんでもかんでも 詩にすればいいってもんじゃない お前の詩は感動がない しょぼい詩ばかり書いて ここ数年で言われたことだ これはどう考えても 私のことを思っての言葉ではない ひとりで詩を書き ひとりで満足してきたが 表現を外に向けて発信したら なんだかんだ言われる なんでもかんでも詩にするから いいんじゃないかな 括られた中の詩なんて 教科書の文書を読むようだ そもそも詩に感動が必要か いらない、いらない 卑しい狙いなんていらない どちらかと言うと 一体これはなんだ そんな世界に憧れている しょぼい? これは詩を楽しむ私に対しての 嫉妬ということにしよう 反面教師 私はひとの詩にくだらない 言葉を吐かないようにしよう そんな小さい人間にはなりたくない と、言うかお互いに 詩をもっと書きましょうよ