どうしても 行かなくてはいけない 場所があった 風が吹き終わる場所 三丁目にある真っ暗な喫茶店 ドアが開く音でオーナーが いらっしゃいませ、と 低い声を響かせる ドアが閉まると テーブルも椅子も 見えなくなってしまい 手探りで席につこうとする オーナーの姿は 未だ見たことがない コーヒーのいい香りはするが テーブルに置かれたカップを いつも指を引っ掛けて こぼしそうになる しかし美味い 実に美味いコーヒーである 香り深み温度と 陶器の口触りから流れ 魅惑へ誘(いざな)ってくれる 見えない店内の 見えないコーヒーを飲む 情報は限りなく少なく 時間とコーヒー 今日もここへ来てしまう