しゃくれた顔に紫黒の髪 肌はテカテカした あなたはまだ若い 食べてしまうには ずいぶんと老いてしまったわたし 恋を夢みる時代には金属の塊が ゴーゴーと音を立て わたしたちを暗い場所に追いやった それでも生きてきた 平和と 容易く消える命と 恋より芋を食べること わたしの奪われた時間 しゃくれたあなたが育み続け わたしの手の皺と同じように老けたのなら 晩年の恋をしましょうか
太陽が被せた暑さ ラップされたところにつく 熱い水滴のように 私はここから逃げれない夏 親父の墓参り お盆だというのにお寺には人気がない 本堂のふすまからは「よう!」って 仏像が手を上げ挨拶するくらい 猛暑による閑散かげんなのか 太陽が真上にある時に手を合わせる私が 世間との時間がズレているのか たぶん思考行動の脳内時計がイカれている 望んでイカれているのは薄々ㅤ実感あり ひとがいない静かなところに聴こえる声が 無性に好きだったりする 私だけが聴いている砂利の音 私だけが聴いてる水を垂らす音 ひとがいないと自然とボリュームは上がる 寺の脇にある広げられた墓地の敷地に 親父の墓がぽつんと離れに佇む 引っ越して家を建てたときもそうだった 周りには草が茂る空き地ばかりだった 今では四方ご近所の家に囲まれている ここもそうなるのだろう それがなんだか親父らしい いつの間にか主のように俺が歴史だ なんて語り出すのだろう そんなに自己愛もないくせに 俺が亡くなったら適当に散骨してくれ そういう親父に私は 亡くなった者はいいけど残された者に 手を合わせるという文化の否定しているみたいだな なんだか嫌味な息子だなと自分で思った ただㅤ存在した価値を決めるのは残された者で 自分でそれを決めないで欲しかった あんたは立派だったよ そう手を合わせる具現物が欲しかった 数ヶ月すると親父は寺に墓を建てていた 敷地を広げられた墓地にぽつんㅤと おっㅤ来たか 相変わらず時間の使い方が下手だな 暑いから俺のことはいいからすぐ帰れよ 親父らしいなあㅤわかったよㅤありがとう ひとがいると聴こえない そんな親父らしい声が聴きたくて 私は太陽に被された中 手を合わせㅤ頭を下げてㅤ汗を垂らした
どうしようもなく 哀しい夕陽を夜空が包む 夢になってどこまでも飛沫した 僕の願いの粒子 バラバラになって遥か遠くへ いずれ粒子は大気中をさまよい 引き寄せあって集魂の結晶に そして時を越えどんな物質にも もちろん君の中にも入れる ミュオンとなる 笑顔を守りたい思い 辛さに添う思い 涙に肩を抱きしめる思い 僕は君の幸せを願うために 降り続ける雨のミュオンでありたい ✳︎ミュオンとは → https://www2.kek.jp/kids/class/earth/class08-03.html
詩にとってストレッチは大事だ ベースボールのイチロー選手は よくストレッチをしているらしい 怪我もせずㅤその柔軟な活躍はひとびとを感動させる なにもストレッチが大事なのはスポーツだけではない もちろん詩にとっても必要なものだ いつでもどこでも言葉を柔軟にしておくことは 描く世界をひろげるためには必須である はてㅤそれでは言葉のストレッチとは なるべく感情を入れずに風景や状態を 声を出して言ってもいいし 心の中で言ってもいい 例えば今のわたしの状況だと 頭の上 ㅤ扇風機ㅤゾーゾーと音 風がきたㅤ風が行ってしまう 風がきたㅤ風が行ってしまう 風がきたㅤ風が行ってしまう カーテンが揺れるㅤ足をくすぐる 外から車の音ㅤザーㅤザー 肩がこるㅤ起き上がる 右手にタブレットㅤ左手まわす 左手にタブレットㅤ右手まわす 左手にタブレットㅤ右手のコップ タブレットを置きㅤ暑いと叫ぶ こんなふうになんでも良いので言葉が柔軟に動けるように 作品を認(したた)めるにはストレッチが重要だ では本番ㅤ行ってみよう 頭の上ではお前に風などやりたくない 扇風機がゾーゾーと電気用語を話す 僕は通訳がなくてもわかってしまう それは言葉のストレッチをしているから 詩的なイメージがすっと入ってくる それは詩を書くものにとって特別なことではない カーテンが足をくすぐる おいおいまたかよㅤって思うんだけど仕方ない 風の命令だってことは知っているんだよ 僕と遊びたいのは風だってことも知っているんだ 風の声がわからないのなら詩なんて書けない 君もそう思うだろう 外から車の音がザーザー 起き上がれよダラダラ人間 そんなヤンキー語が聞こえる それじゃ休日をエンジョイするか 立ち上がり 右手にタブレットㅤ左手まわす 左手にタブレットㅤ右手まわす 左手にタブレットㅤ右手にコップ 一杯の水を飲み 燃えすぎなんだよ太陽ㅤって叫んだ 今日も猛暑 それでも出かけよう カラダが鈍ってしまうしな タブレットをカバンにいれ 玄関を開けたら地面から熱気が ようこそ夏地獄へㅤって笑っていた まあㅤこんな感じかな 詩の柔軟性を活かすには 言葉のストレッチが大事だってことだ