僕はまだまだ 偽りの詩を書いている 本心まるだしの 詩を書いてしまったら ひとは気分を悪くするだろう 僕はまだまだ人間として どうかなあ、って感じなんだ まずは人間を磨かないといけない そうしないといつまでも 偽りの詩しか書けやしないから
詩に携わることで 名刺を作らなければならない とある事情で金融機関が 名刺を催促するのだから仕方ない 職場では名刺の要らぬ仕事だから はじめてことであった 正直、めんどくせぇなあ と思っていたが いざ、出来あがってみれば…… ニヤつく自分がいる 金融機関にしか渡さない名刺 一枚は自分の財布に入れておこう たまに覗いてニヤニヤしよう
ふと、思う時がある なぜ詩を書いているのだろう とくに詩でなければいけない そんなわけでもなく 今はなんとなく詩を書いていたい 難しいことでもないみたいだ でも、なんとなく書いている詩も 四十年近くなるのだから 私との相性は悪くないようだ 中学生の頃にグループノートがあり 順番で自由に書いて みんなが回し読みをするという 先生の発案でそんなことをしていた 私はその時に知った 自分が書くことが好きだということ ひとが二、三行を書くのに対し 二ページはいつもダラダラと書いていた そこにあるのは100%の サービス精神であった 自分の失敗談やギャグや素っ頓狂な話し そしてもうひとりの自分 学校や社会への疑問、自己否定に自惚れ そんなものを自分のノートに書いていた 書くことが好きだったのか 考えることが好きだったのか 心のバランスをとっていたのだろうか 今もなにも変わってはいない サービス精神と言いたいことがあり どこかで自分を肯定して欲しいなんて 小さい私は書き続けているのかもしれない
君からきた年賀状に 鶴亀の絵が描かれていた 覚えているだろうか 小学一年生の時 空き地で拾った財布を交番に届けず お金を山わけしたこと 私は覚えている どうしても欲しかった大きな亀を そのお金で買ってしまった うちに帰ると母親に その亀をどうしたの? と、聞かれた 捕まえたと言ったがすぐにバレた おこずかいで買った、また嘘をつく 落ちていた財布の お金を使ったとは言えなかった 亀は元気に歩く 甲羅の端っこにキリで穴をあけ 逃げないように釣り糸を通し縛り 近所を散歩させると 友だちがすげえ、すげえと集まった 拾ったお金で買ったことも忘れ いい気になっていた よくザリガニ釣りをしていた池で 亀を入れて遊ばせようとした 太い釣り糸をつけていたので 引っ張れば亀は戻ってくる、と しかし、小学一年生のやること すぐに釣り糸は引っかかり ぷつんと切れてしまった 呆然と立ちすくみ 一日を振り返っていた 亀がいなくなった残念な気持ちは すぐに打ち消された 悪いことをしてしまった思いが 正気に戻そうとしていたのだろう 自分は良い子だと思っていたけど 初めていけない子になり肩を落とした そして母親に本当のことを告げた それから亀の姿を 見ることは一度もなかった 君はあの時に買った 飛行機のプラモデルを覚えているだろうか
小学一年の時にはもう別格 精密な戦車スーツを着た サラーリーマンをノートに 描いていたのだから みんなが彼の机の周りを囲み すげえ、すげえの大合唱 ただ絵が上手いだけでない 彼の頭の中がいつも愉快で 誰も考えられない場面や状況を 時間があれば描きっ放しなのだから 間違いなく天才だ しかし、彼が学校の先生から 絵を褒められたことはなかった 小学校の六年間で美術展へ 作品が選ばれたことは一度もない 「子どもらしくない絵」 そんな声が大人からは聞こえてきた あれからすでに時は随分と過ぎてしまった 彼はまだ絵を描いているだろうか 才能を認めてくれた大人とは 出会えたのだろうか 絵で世の中を明るくする天才が まだ誰もが知る絵描きに なっていないことが不思議でしかたない 彼の描いた絵より心を揺さぶった 作品に未だ私は出会ったことがない 天才は悲しんではいないはず どうか近い未来に彼がひょっこり 度肝抜く絵をぶら下げて現れ 私たちを楽しませてくれると信じている
冷さの横には僕がいて 奴の力は絶大だ いくら着込んでも 影響して来るんだから たいした奴がいると 体が震えているよ 温かさの君が横に来て 君の存在は絶大だ どんなに冷え込んでも 奴を忘れられるのだから 上には上がいると 顔がほころんでいるよ
だらしなく歌っても 誰からも文句は言われない 土手沿いには自分がいて ひとりに帰ってきた 孤独は遠いところ 寂しさはもっと遠いところに 懐かしさは涙をこぼすけど 理由なんてわからない まだ冷たい風が 今、生きている実感を 教えては通り過ぎる 久しぶりだったね とっても心地よい自分よ
送られてきた同人の詩誌やご自身の詩集を拝読することが多くなった。皆さん、送料等をご負担され贈呈してくれる。私など超無名の詩書きにとっては、もう申し訳ない気がしてならない。しかし、来るものは拒まずきっちり拝読し、感想等を述べられれば送るようにしている。私も詩集を作り、今まで作品を送ってくださった方々に恩返しするのが一番良いのかもしれない(迷惑作品かもしれないけど……)。 そうか、詩集を手作りしようかなあ、なんて思っちゃうわけで。とは言っても、そう簡単に詩集を形には出来ないだろう。この作業には時間とエネルギーがかなり必要なわけで、今の自分のやる気と体調からするとすぐには動けそうにない。悔しいが無理は出来ない、持病と上手に向き合っていかないと、日常が崩れてしまいそうだから。 倒れねほどに 頑張れば良いじゃないか 進むことが大事で 諦めることはすぐにでも出来る 今、出来る充実があればそれで良い 焦って生きてきた人生が 今までの失敗を教えてくれたじゃないか 大事にしよう時間も自分もひととの繋がりも
先週の雪は道端に積まれ 回収を忘れたゴミのように 未練ばかりを回想して なるべくひとが少ない道を選び 図書館へ向かう 混んでいるのだろう 図書館へは時間をずらそうと 献血センターを覗いてみた 常連の私にとって 一時間待ち程の賑わいと感じた いつもは閑散としているのに 陽気がこの街を今日は変えている やはり図書館かと向かう 座るところがない程に混んでいる しかし詩集が並んだ棚には 誰ひとりとして興味を示していない ここがなんとも落ち着く場所だ 今の気持ちに合う詩集を探すが 見つかるわけもなく 二月三日ということで 上から二番目の棚 右から三冊目の中原中也の詩集を抜く 座る場所を確保して詩集を読まず タブレットを取り出し 詩を書き始めている いつもの私は今日も変わらない
この足元から臭う 茶色に広がる世界はどこですか 足を止めた瞬間に 僕は僕じゃないかと思いました どこから来たのでしょう これからどこへ行くのでしょう 歩き出すとまた記憶がなくなってしまう だから今は進む気がしないのです でもきついのです 動かないってとっても 我慢って言葉は知っています 誰に教わったのでしょうか 我慢を繰り返したら 解放されたのでしょうか 忘れてしまいました 僕の存在以外の僕のことなど また繰り返してしまいました 僕は僕の日々を捨てて 歩き出してしまうのです この足元から臭う 茶色に広がる世界は…………