バイクで北へ そして怪しい旅館に泊まる ああ、ここは駄目だ 俺の精神に入り込む怨霊のにおい もう風呂に入らず寝てしまおう 恐怖よりも疲労が 優っている今のうちに 顔だけは洗いたい 暗い洗面所の蛇口をひねり 水に体温を感じる ふと鏡を覗くと この世の顔ではない俺がいた
とある詩の月刊誌は、ほぼ詩や評論、座談録で編成された本。他の月刊誌はすべに詩以外の記事が多くなっている状況だ。詩だけで勝負しているその本の定期講読数は七百数十冊という。書店で購入された本も千冊を下る。二千冊を発行しても余る状況だ。利益はないのかもしれない。いつ廃刊になっても不思議ではない。詩集を手掛けている出版社だからなんとか発行しているのかもしれない。……かもしれない。 何を語っているのか、わからないと言われる現代詩という括りを消して、詩がもっと自由になり、様々な視野を広げる時がすでに来ているのかもしれない。
最初は勢いよく時間を踏み込み 躓き転び瘡蓋を弄る 疲れ知らずの童謡は タラッタタラッタ晴天の行進 綻ぶ日々に一段飛ばし二段飛ばし 螺旋階段を上る事に疑問を持つ 上下左右を確認しながら 風の中で自分の位置を知る 狼狽え進む時間が回り出し 観念と足掻きの二重螺旋を行く 人事を尽くし粉にする身 堅実に我以外の為に息を吐き 幸福の意味を咀嚼し始める 未だ見えずの日々も陽が差し 足の限界に手摺りを掴み目指す 一段一段の含意が浸透する 螺旋階段をただ上がる事に消す不安 天を目指す顔は美しく皺皺 連なり進む列を和ませ 時間に強かさを得て天辺へ
四畳半の部屋に ひび割れたカラーボックス ガムテープで貼り 贅沢の真逆を行く頑固 家を飛び出した空間には 縛られない自由と途轍もない孤独 その双方が膨らめば膨らむほど 詩作品が収まる テレビもラジオも本も要らなかった 紙とペンとカラーボックス そんな日々を確かに生きた
高校一年生の時に彼と出会った 下校時に学校へ向かってくる生徒がいた 私と向き合うように歩いて来る 彼が私に声を掛ける 文化祭に出たんだって ギター一本で 僕はあの日、学校をサボったから 君の演奏は聴いてないけど そうか、ギターをねぇ 今度、聴かせてよ あれっ、もう帰り? ああ、今日は半日だから 彼は昼どきに登校して来たのだ 変な奴だと思ったが落ち着いた口調は 大人だなあという印象だった お互いに仕方ねえなあ って、顔をして駅へ歩き出した その流れで彼の家へ行くことになった 家へ入るとおしっこ臭かった そして、彼の弟が 私の髪の毛を楽しそうに引っ張った 駄目だぞ 彼は弟に大きな声で叱った どうやら重い障害を持っているようだ 注意している様子を見て やはり家庭環境が彼を 早く大人にしたのだろうと思った 彼は弟が生まれてから友達を 家に呼んだことは殆んどないと言った なぜ、私を誘ったのだろう そのことを訊いたことはなかった 彼の唯一の楽しみはバイオリン 弓に松脂を擦ると弦を弾いた 私にとって非日常の高音が響いた 圧倒された 私は意味なく負けたと思った 近所に住むバイオリン奏者がいて 玄関を叩き 直接に指導してほしいと願ったらしい そしてレッスンを受け 彼の夢がそこにあると思えた しかし、彼は高校を卒業すると働きながら 福祉の学校へ進んだ 弟を良い施設へ入所させる為にも 自分がこの道を進もうと決めた 親は先に逝ってしまうのだから 自分が弟の面倒は見るのだと言っていた そして彼はひとつ嘘をついた 学校を卒業し福祉の仕事に就き弟も施設へ入所 さあ、これから彼自身の人生が始まると思った矢先に 若くして癌に侵され逝ってしまった 親よりも早く 弟の為に人生を捧げ 生きたといっても過言ではないだろう 彼は弟の誕生から愛を知っていた 愛することも知っていた 誰しもが表現できない愛を実現した 最近、私はやっと彼がけして不幸ではなく 幸せだったと思えるようになった 弟の幸せが何より幸せだったのだから その人生は今も私にあの高音で響き続いている
This is a pen! ずいぶん前に流行った 英語がよくわからない時に とぼけて言う 初めて学んだ英語ギャグ 最近では Pen-Pineapple-Apple-Pen 初めて踊った変なダンス ペンで書くことを忘れ 次はどんなブームが来るのだろう
風邪も落ち着き本屋へ向かった 小説棚の前に立つ 一冊も本を開かずに パワーを本から感じる 詩集が少し置いてある棚へ立つ 開いてもすぐに閉じてしまった 勝手に想像した エネルギーの差を感じる センス、表現力、時代とかではなく なぜ僕らのエネルギーは 小さく収まっているのだろう
毛布に包まり 警報的なアラーム音でも 揺すっても起きない うるさいっ なんだなんだの逆ギレかっ みのむし娘は起きやしない ぎりぎりでやっと起き またプンプン なんで起こさなかったの とかいって でも 部活での頑張りを知っているよ 心の中でいい子いい子して 行ってらっしゃい