2007年度 7月 「食品衛生と米国法律のイロハ」
講師 - 田川顕子 氏
『田川顕子(たがわ あきこ)氏のプロフィール』
衛生検査官として十年のキャリアを持ち、現在も公認環境衛生スペシャリスト・飲食業のコンサルタントとして活動中。南カルフォルニアでは食品安全法や衛生検査の専門家として知られており、過去8年ロサンゼルス郡衛生局新入検査官にHACCPや魚介類の安全法など、数々のトレーニングを実施。その他、フロリダ州、カルフォルニア州、イリノイ州でもFDA (アメリカ食品薬品局)の講師として、州立のインスペクターにHACCP等のセミナーを開催。ワシントン州では、魚介類の小売の安全性についてセミナーを開催。講師として、UCLA, CSU Los Angeles, CSU Pomona やパサデナ料理専門学校でも活躍。カリフォルニア州立環境衛生連合のロスアンゼルス部会長やアメリカ食品薬品化粧品品質管理連盟会長等を勤め、食品安全と衛生管理に全米で活動。日系社会においては、JAPANESE RESTAURANT NEWSという英和バイリンガル食品業界月刊誌のコラム「Health Tips」の筆者やJETRO主催の日本食文化推進委員会の顧問を務める。
講義内容
食品衛生と米国法律のイロハ
1. はじめに
8年ほど前にレストランのキッチンの汚さが全米ニュースになり、問題視され始め、この事がきっかけでレストランのA,B,C,のグレード制がロサンジェルス郡を含めた大部分の南カルフォルニアの法律となった。この時の法律作成に携わった経験を基に全米の食品関連の法律がどのように作られるのか、どのような影響が有って法律が変えられていくのかについての話をしたい。
2. 米国での食中毒
最近ではペットフードに含まれたメラニンに依る犬の死亡、ピーナツバターに含まれたサルモネラ菌、ほうれん草に含まれた大腸菌などが話題になっているが、食中毒をテロとして使われる事も視野にに入れて対策をとる必要が生じてきた。 全米で起きている全ての食中毒が衛生局に報告されるわけではないので、その確実な発生数は把握できていない。 レストランでの食中毒の公訴には約2年必要だが、敗訴すると被害者の弁護士代、医療費などをふくめた諸費用が約7万ドル掛かる。これは小さなレストランにとってはかなりの費用負担になる。このような問題を避けるには以下の事を知っておく必要がある。
・法律の構造
・食中毒のリスク
・法律の改善
3. 政府機関の構造
米国の場合以下の政府機関が存在するが連邦政府が作った枠内であれば各機関レベルでの法律の取り入れ方は自由。故にレストランのA、B、C、グレード制も 導入していたり、していない郡や市が存在する。更に各部門、衛生局に依って法律の解釈も少しづつ異なるので検査の仕方も検査官に依って異なる。
・連邦
・州
・ローカル
- 郡 (LA, Orange, Riverside, SD, SB, Ventura)
- 市 (Long Beach, Vernon, Pasadena) この3市は郡とは別の衛生局を 持ち、異なる衛生法を保持している。従って、ロサンジェルス郡でありながらレストランのA,B,C,表示は行使されていない。
しかし、最近になって連邦政府が連邦政府の食品に関する法律を全米に展開し、どこでも同じ法律が適用されるようにしたいという動きが出だした。
4. LA郡のグレード制度
A: 90~100点
B: 80~89点
C: 70~79点
採点は各所問題に対し食中毒のリスクの高い方から6点、4点、1点の減点となる。但し、一箇所に食中毒のリスクが一番高い問題が発見されても、他に問題が無ければ6点のみの減点となり、グレード表示はAとなってしまう。従って、Aの表示だからといって必ずしも安心は出来ない。しかし、インスペクションレポートを顧客が要求すれば、店はそれを提示する義務がある。
5. 食中毒高リスク5箇条
1.不安全な食品の仕入れ
2.加熱不十分
3.湿度管理不十分
4.食器や機会が不衛生
5.従業員の衛生管理不足
6. ペスト
ゴキブリ:発見されると衛生管理が不十分という事で店の閉鎖の理由になる。
蝿: 蝿は歯が無いので食物(糞等)を一旦飲み込んだ後、それを吐いて食べる習性があるので食品の上に停まると不衛生。
ねずみ: 臀部の筋肉が発達していないため、走りながらでも糞尿を出すので不衛生。小さなねずみの場合は鉛筆の太さの穴、大きな溝鼠でも10セ ントコイン程度の穴から出入り出来る。
7. 食中毒を最低限に抑える方法
* 従業員の知識(5年毎にフードハンドラーの試験)
* 従業員の健康管理(大腸菌、A型肝炎、赤痢菌、下痢などの防止目的。くしゃみの仕方、手の洗い方の基準の設定)
* 食品の温度と時間管理
* 素手での調理の抑制(シカゴでは寿司も手袋をはめて握る事になった)
* 顧客への注意(アレルギー)
8. 食品の取り扱い
* 調理中は2時間まで外に出して置いてもOK
* 生野菜や果物は必ず洗う
* 野菜、果物の加熱135度(F)
* 貝類はタグ期日の順序で90日までは保管OK
* 賞味期限の変更禁止
只、米国の場合、民族料理を提供する店も多々あり、場合によっては法で定められた基準がそぐわない場合がある。その場合、California Restaurant Association, National Restaurant Association, 或いは居住地の市長やその地出身の国会議員などに団体で意義を申し立てると案外簡単に法律を変更してくれる。
9. アレルギーの注意書き
以下の食材が含まれる食品をパッケージにして販売する場合は必ずアレルギーに対する注意書きをする必要がある。
* 牛乳
* 卵
* 海老、ロブスター、蟹
* 麦(Wheat)
* 大豆(枝豆、豆腐、豆乳)
* ピーナッツや木の実
9. 温度管理
温度管理に関しては昔はさほど厳しくは無かったが、ジャックインダボックスで温度管理が不十分であったハンバーガを食べた事が原因で少女が死亡する事件があって以来厳しくなった。この様に高リスクな事件などに依って法律は変わっていく。
* 時間管理
* 温度管理
* 加熱管理
* 冷却管理
* 食器洗い
9. 法律に当てはまらない場合
文化の違いで法律に従えない食品管理や調理方法があった場合、その方法でも食中毒が防げると衛生管理インスペクターが判断すると、法律から免除してもらえる。
* 文化の違い
* 免除(Exemption)をもらう
* 寿司シャリ(例)
9. 時間管理の由来
* 病原菌の繁殖率
バイキンの繁殖は時間と温度管理に依るが最近の連邦政府の研究結果により最高4時間までは外に出しっぱなしでも良い事が判った。故に、寿司シャリなども4時間までは外に出したままでも良い事になった。
9. 今日の講演の復習
* 法律のイロハ
* 食中毒のリスク
* 法律の変化
『田川顕子(たがわ あきこ)氏のプロフィール』
衛生検査官として十年のキャリアを持ち、現在も公認環境衛生スペシャリスト・飲食業のコンサルタントとして活動中。南カルフォルニアでは食品安全法や衛生検査の専門家として知られており、過去8年ロサンゼルス郡衛生局新入検査官にHACCPや魚介類の安全法など、数々のトレーニングを実施。その他、フロリダ州、カルフォルニア州、イリノイ州でもFDA (アメリカ食品薬品局)の講師として、州立のインスペクターにHACCP等のセミナーを開催。ワシントン州では、魚介類の小売の安全性についてセミナーを開催。講師として、UCLA, CSU Los Angeles, CSU Pomona やパサデナ料理専門学校でも活躍。カリフォルニア州立環境衛生連合のロスアンゼルス部会長やアメリカ食品薬品化粧品品質管理連盟会長等を勤め、食品安全と衛生管理に全米で活動。日系社会においては、JAPANESE RESTAURANT NEWSという英和バイリンガル食品業界月刊誌のコラム「Health Tips」の筆者やJETRO主催の日本食文化推進委員会の顧問を務める。
講義内容
食品衛生と米国法律のイロハ
1. はじめに
8年ほど前にレストランのキッチンの汚さが全米ニュースになり、問題視され始め、この事がきっかけでレストランのA,B,C,のグレード制がロサンジェルス郡を含めた大部分の南カルフォルニアの法律となった。この時の法律作成に携わった経験を基に全米の食品関連の法律がどのように作られるのか、どのような影響が有って法律が変えられていくのかについての話をしたい。
2. 米国での食中毒
最近ではペットフードに含まれたメラニンに依る犬の死亡、ピーナツバターに含まれたサルモネラ菌、ほうれん草に含まれた大腸菌などが話題になっているが、食中毒をテロとして使われる事も視野にに入れて対策をとる必要が生じてきた。 全米で起きている全ての食中毒が衛生局に報告されるわけではないので、その確実な発生数は把握できていない。 レストランでの食中毒の公訴には約2年必要だが、敗訴すると被害者の弁護士代、医療費などをふくめた諸費用が約7万ドル掛かる。これは小さなレストランにとってはかなりの費用負担になる。このような問題を避けるには以下の事を知っておく必要がある。
・法律の構造
・食中毒のリスク
・法律の改善
3. 政府機関の構造
米国の場合以下の政府機関が存在するが連邦政府が作った枠内であれば各機関レベルでの法律の取り入れ方は自由。故にレストランのA、B、C、グレード制も 導入していたり、していない郡や市が存在する。更に各部門、衛生局に依って法律の解釈も少しづつ異なるので検査の仕方も検査官に依って異なる。
・連邦
・州
・ローカル
- 郡 (LA, Orange, Riverside, SD, SB, Ventura)
- 市 (Long Beach, Vernon, Pasadena) この3市は郡とは別の衛生局を 持ち、異なる衛生法を保持している。従って、ロサンジェルス郡でありながらレストランのA,B,C,表示は行使されていない。
しかし、最近になって連邦政府が連邦政府の食品に関する法律を全米に展開し、どこでも同じ法律が適用されるようにしたいという動きが出だした。
4. LA郡のグレード制度
A: 90~100点
B: 80~89点
C: 70~79点
採点は各所問題に対し食中毒のリスクの高い方から6点、4点、1点の減点となる。但し、一箇所に食中毒のリスクが一番高い問題が発見されても、他に問題が無ければ6点のみの減点となり、グレード表示はAとなってしまう。従って、Aの表示だからといって必ずしも安心は出来ない。しかし、インスペクションレポートを顧客が要求すれば、店はそれを提示する義務がある。
5. 食中毒高リスク5箇条
1.不安全な食品の仕入れ
2.加熱不十分
3.湿度管理不十分
4.食器や機会が不衛生
5.従業員の衛生管理不足
6. ペスト
ゴキブリ:発見されると衛生管理が不十分という事で店の閉鎖の理由になる。
蝿: 蝿は歯が無いので食物(糞等)を一旦飲み込んだ後、それを吐いて食べる習性があるので食品の上に停まると不衛生。
ねずみ: 臀部の筋肉が発達していないため、走りながらでも糞尿を出すので不衛生。小さなねずみの場合は鉛筆の太さの穴、大きな溝鼠でも10セ ントコイン程度の穴から出入り出来る。
7. 食中毒を最低限に抑える方法
* 従業員の知識(5年毎にフードハンドラーの試験)
* 従業員の健康管理(大腸菌、A型肝炎、赤痢菌、下痢などの防止目的。くしゃみの仕方、手の洗い方の基準の設定)
* 食品の温度と時間管理
* 素手での調理の抑制(シカゴでは寿司も手袋をはめて握る事になった)
* 顧客への注意(アレルギー)
8. 食品の取り扱い
* 調理中は2時間まで外に出して置いてもOK
* 生野菜や果物は必ず洗う
* 野菜、果物の加熱135度(F)
* 貝類はタグ期日の順序で90日までは保管OK
* 賞味期限の変更禁止
只、米国の場合、民族料理を提供する店も多々あり、場合によっては法で定められた基準がそぐわない場合がある。その場合、California Restaurant Association, National Restaurant Association, 或いは居住地の市長やその地出身の国会議員などに団体で意義を申し立てると案外簡単に法律を変更してくれる。
9. アレルギーの注意書き
以下の食材が含まれる食品をパッケージにして販売する場合は必ずアレルギーに対する注意書きをする必要がある。
* 牛乳
* 卵
* 海老、ロブスター、蟹
* 麦(Wheat)
* 大豆(枝豆、豆腐、豆乳)
* ピーナッツや木の実
9. 温度管理
温度管理に関しては昔はさほど厳しくは無かったが、ジャックインダボックスで温度管理が不十分であったハンバーガを食べた事が原因で少女が死亡する事件があって以来厳しくなった。この様に高リスクな事件などに依って法律は変わっていく。
* 時間管理
* 温度管理
* 加熱管理
* 冷却管理
* 食器洗い
9. 法律に当てはまらない場合
文化の違いで法律に従えない食品管理や調理方法があった場合、その方法でも食中毒が防げると衛生管理インスペクターが判断すると、法律から免除してもらえる。
* 文化の違い
* 免除(Exemption)をもらう
* 寿司シャリ(例)
9. 時間管理の由来
* 病原菌の繁殖率
バイキンの繁殖は時間と温度管理に依るが最近の連邦政府の研究結果により最高4時間までは外に出しっぱなしでも良い事が判った。故に、寿司シャリなども4時間までは外に出したままでも良い事になった。
9. 今日の講演の復習
* 法律のイロハ
* 食中毒のリスク
* 法律の変化