日時
2009年10月14日(水)、6:30PM - 8:30PM
会場
ニューガーディナ・ホテル
講師:AKIHITO 氏(特殊メイクアーティスト)
講師略歴
福岡県出身。TVチャンピオン「特殊メイク王選手権」で3連覇。一流メイクアップ関係者が世界中から集まる「インターナショナル トレードショー アバンギャルドメイキャップ部門で日本人初の優勝。日本では「アナザヘヴン」(2000年/飯田譲治監督作品)特殊メイク、「ウルトラマンコスモス」メイン怪獣デザイナー、などSFXの現場で幅広く活躍。
2002年に渡米、 ロサンゼルスの特殊メイクアーティスト、彫刻家として、映画「ハルク」「エイリアンVSプレデター 1、2」「アイランド」「ナルニア国物語 1、2」「トランスフォーマー」「ミスト」「インディアナ ジョーンズ」「ドラゴンボール Z」「ターミネーター4」等のデザイン、キャラクターメイク、造形など、活躍の場を世界に広げている注目のアーティスト。
講演内容
日本で16年間続いた大人気テレビ番組「テレビチャンピオン」の「特殊メイク王選手権」で、三連覇を達成。特殊メイク界で日本一の実力を世に示した。
「特殊メイク王選手権」の初回の映像を流しながら、ギリシャ神話に登場する女神メデューサ造りを紹介。女神メデゥーサは、髪の毛が蛇でできている魔物。蛇の鱗一枚一枚まで正確に造り上げる様子を紹介。非常に根気のいる作業である。テレビでは、生きた蛇を見ながら作業を進める様子が流れたが、これはテレビの演出。実際には写真を見ながらの作業で、こんな事はしないとのこと。また、番組上の演出も非常に多く、半分はヤラセと思った方が良いとの裏話も紹介された。(もっとも、勝負自体はガチンコとのこと)
男性モデルに、バストをつけ、顔を膨らませ、蛇のカツラを付け、AKIHITO氏のイメージが段々と具現化されていく。恐ろしさの中に妖艶さが漂うメデゥーサが完成。
「特殊メイク王選手権」三連覇を果たしたが、それで仕事がどんどん舞い込んでくるようになったわけではなかった。もともと特殊な業界である上、コネクションが物を言う業界で、日本一の称号が日本の仕事で役に立つことはなかった。日本一になって一番良かったことは、親孝行ができたのである。それまで特殊メイクをやっていると言っても、何のことか理解してもらえず大変心配されたそうだが、チャンピオンとなりご両親にも認めてもらえたとのこと。
また、人に見られることを意識して作品を造ることで、スキルの向上に繋がった。
その後、文化庁芸術家在外研修制度を利用し、渡米。現在LAの特殊メイク工房のキーアーティスト、造形作家として活躍中。
アメリカでは、ハリウッド映画があるため、特殊メイクの市場も大きい。大ヒットした「ナルニア国物語」でも、特赦メイクプロジェクトにAkihito氏が参加。 「ナルニア国物語」に登場する半神半獣のタムナスの製作過程を紹介。まず、20cm大のマケットを製作。監督のOKが出た所で、完成したマケットがAKIHITO氏に送られてくる。マケットを元に、特殊メイクを造る部分を粘土彫刻を造る。その後、テストメイクを行う。人工皮膚を付け色を付け初回のメイクが完成。4回ほどのテストメイクでOKが出て、実際のモデルへのメイクを行う。
また、「ナルニア国物語」実物大の動くライオンを制作した。
最初に、1m程度のライオンの模型を制作する。これを専門の会社に送り、3Dスキャンして実物大のライオンの模型ができてくる。これに彫刻を施し、色を塗り、毛を一本一本植え、まるで生きているかのようなライオンができあがる。さらに、目や口がリモコンで動くようにメカを仕込む。各工程は高度に分業化されており、Akihito氏は造詣と彫刻を担当。まるで生きたライオンが本当に話しているかのような動きをする。 ハリウッド映画では、莫大な制作費をかけるため、このような大がかりな特殊メイクの制作も可能になる。
昨今の大きな流れとして、CG(コンピューター・グラフィックス)の急速な発展が挙げられる。ほとんどの特殊効果をCGで表現することが可能になってきており、逆に特殊メイクや造詣の方は、既に限界のレベルまで来ている。必ずしも特殊メイクに頼る必要が無くなってきている。事実、特殊メイクの活躍の場は減少しつつある。
あるハリウッド映画のプロジェクトで、8mの巨大なワニを25人のスタッフで3ヶ月ほどかけて制作を行い、ロケ地の南アメリカへ発送した。しかし、実際に水に浮かせてみると、本物そっくりのワニの動きが再現できなかったので、監督の一声で全てCGに差し替えられてしまった。 CGに活躍の場を奪われつつある特殊メイクだが、特殊メイクならではの利点もある。。「ナルニア国物語」では、ライオンの映像の99%はCGであるが、映画の完成度を高めるためにはやはり特殊メイクのライオンが必要になってくる。子役がライオンの背中に乗って失踪する場面があるが、映画の画面上では子役も生き生きと演技をしていた。これは、実際に本物そっくりのライオンの模型の背中に乗っているため、役者は感情移入ができ、生き生きとした演技に繋がるためだ。撮影後、CGによりバックの風景や、ライオンの動きが付加される。特殊メイクで造ったライオンは、CGの基礎データーとして活用されている。
また、オカルトモンスターやゾンビの製作過程も紹介された。
特殊メイクの世界では、オカルト系、ゾンビ系の製作が多いが、AKIHITO氏は、できるだけ綺麗系で妖艶な作品造りを心がけている。アメリカでKNB社にレジメを送った際、他は皆モンスター等の作品で応募したが、AKIHITO氏は綺麗系でアジアンチックな作品で応募したため、非常に目立ち採用された。
Akihito氏は、活躍の場をハリウッド映画だけでなく、自身の独特の世界観に基づいた作品制作にも広げている。立体タトゥーやアート作品が自身のWEBサイト、SHINISEYA で紹介・販売されている。
http://www.shiniceya.co.jp
現在、これらアート作品のスポンサーを募集中とのこと。ちなみに、これらのアート作品は、本業の合間の休み時間を利用して作られたそうだ。アメリカに来て、特殊メイク工房で仕事をするに当たって、やはり言葉の壁が大きかった。実際の制作においては、黙々と造れば良かったが、休み時間に同僚とうまくコミュニケーションが取れない。そこで、これらのアート作品を造った所、女性を中心に好評だったことから一連の作品ができあがった。
最後に、観客参加で特殊メイクの実演が行われた。
以上
講義録担当: 武藤 秀毅