講師 渡部隆男氏
講師紹介と略歴
5月度のセミナーはSBMSの会員でもある渡部隆男氏に講師をお願いして、「食肉業界の実態:どうなるBSE/鳥エンフルエンザ」と題してお話し頂きます。
米国でたった一匹のBSE(狂牛病)にかかった牛が発見されたことにより、日本のファーストフード店から「牛丼」が消えました。そして最近は鳥エンフルエンザの連鎖的な感染により、養鶏業経営者の自殺にまで発展してしまいました。渡部氏は下記プロフィールの如く、40年以上にわたり食肉を扱っており、日米の食肉業界に精通している方です。いま話題性のある演題で、業界の実態や裏話など、面白い話が期待できそうです。
〔渡部隆男氏のプロフィール〕
1963年早稲田大学卒業と同時に貿易商社野崎産業入社。
1973年同社のLA支店長として出向。
1997年同社を退社してNEVADA-UST創立し現在に至る。
野崎産業時代から一貫して食肉輸出入に従事。
講義内容
米国で発見されたBSE(狂牛病)のために、日本はアメリカから牛肉の輸入を全面禁止し、吉野家から牛丼が消えてしまった。しかし、米国では、牛肉の値段は下がらず、アメリカ人は気にせず食べている。この違いは、農耕民族と狩猟民族の違いとして考えると理解できる。狩猟民族は何万年にもわたって肉を食べ続けており、米国ではミートといえば牛肉のことで、牛肉の無い生活は考えられない。また、パニックになるのを防ぐために、米国政府は必死にBSE隠しをしていることも十分考えられる。
牛の数を比較すると、米国は1億頭、米国人2人に1頭の割合で、日本は280万頭しかいない。日本では、肉は高いものと考えられている。日本で、なぜ肉が高いかというと、それはコストがかかっているから。
米国では、18ヶ月の短期肥育だが、日本人の求める霜降り肉を作るためには4年間かかる。この肥育期間の差が、コスト差となって現れてくる。豚の場合は、一頭あたりの生産コストが、米国は13500円、日本は29000円。内訳は、日本は飼料代が18000円。これは、日本では飼料(主としてトーモロコシ)を100%輸入しているからで、米国は、自国産飼料を使っているので、コストが安い。
日米のひとりあたり、1年間の肉消費量を比較すると、日本人は牛肉7キロ、豚肉11キロ、鶏肉10キロの合計約30キロ、アメリカ人は牛肉30キロ、豚肉25キロ、鶏肉20キロの合計75キロ。魚の消費量の比較では、日本人が100キロで、アメリカ人は10キロ。日本人はたんぱく質を、魚で取っている。日本人は歳を取ると、肉から魚を食べるひとが増えるので、これからの日本では、肉の消費はあまり伸びないかもしれない。
日本の、肉の自給率は、牛肉が39%、豚肉が65%、鶏肉が96%。牛肉は自由化になり、日本で生産してるのは、高級品だけで、一般向けは輸入に頼っている。豚肉もまだ、国内生産者を保護するために輸入制限をしているが、この制限が撤廃されるのは2,3年のうち。
米国は世界一の肉の輸出国で、BSE発生以前は、年間50から60万トンを輸出している。また同時にオーストラリア、ニュージーランドからハンバーグ、ソーセージ用の安い肉を輸入している。オーストラリア、ニュージーランドの生産者は米国が一番の客なので、日本市場への関心は低い。
米国でのBSEの発見で、米国からの牛肉の輸入が止まったとき、オーストラリアやニュージーランドから輸入すればよいと、日本では考えたが、オーストラリア、ニュージーランド産の肉では、吉野家の牛丼の味を出すことができなかった。米国の牛はトーモロコシで育っているからうまく、オーストラリア、ニュージーランドは草で育てられているので、肉も硬く、米国産のような味がでない。
日本が米国に要求しているBSEの全頭検査は、米国は受け入れられないこと。膨大な費用がかかるうえ、米国人に不安を与える。日本の米国産牛肉輸入禁止問題は、いずれ政治決着がつくと思う。
BSEは人間に感染するために恐れられているが、本当に怖いのは、牛、豚、鹿などひづめのある動物だけが感染する口蹄疫。世界で汚染されていない国は18カ国しかない。中国は豚の大生産国だが、口蹄疫の汚染国のため、輸出することができない。もしアメリカで口蹄疫が発見されたら、米国の肉食業界は破綻する。