2010年度 12月 - 「会社立ち上げとベンチャーキャピタル」 ベンチャーは怖くないけど注意すべき
講師:新原 豊(にいはら ゆたか)氏
講演録担当:内藤喬生
講師略歴 エマウスメディカル株式会社最高経営責任者
UCLA医学部教授
1959年、東京生まれ。13歳の時に渡米。ハワイで高校を卒業し、カリフォルニア州のロマリンダ大学宗教学部を卒業。同大学医学部卒業。ハーバード大学公衆衛生学修士課程終了。 2000年、UCLA医学部准教授に就任。同年12月にエマウスメディカル社を設立。
2005年、医学部教授。
現在、これまで治療法がないとされてきた、鎌形赤血球病の治療薬を開発するエマウスメディカル社の最高経営責任者であり、今、アメリカの医学界で最も注目されている一人である。
講演内容
はじめに
博士の会社立ち上げと、ベンチャー企業との関係について説明する前に、鎌形赤血球病について説明する。 鎌形赤血球病とはアメリカの黒人の間に広がっている遺伝子による病気。赤血球は普通球状の形をしているが、この病気になると鎌のように変形し、5歳未満で死んでしまうケースが多く、長く生きても40歳ぐらいである。アメリカ黒人の400人に一人ないし500人に一人という確率でかかる。アメリカより西アフリカ、中央アフリカでの発症率の方が高く、そこでは、黒人の50人に一人という割合で発病する。 アフリカからやってきた黒人は、鎌形赤血球病をもつ遺伝子をもって生まれる確率が高い。アフリカはマラリヤ病が多く発生する地域で、マラリヤになって死んでいった人と、治った人がいる。その治った人、つまりマラリアに打ち勝った人の中に、鎌形赤血球病になるDNAの突然変異をおこし、その子孫がそのDNAを受け継ぐようになった。 鎌形赤血球病の基礎的な研究はUCLAでなされた。新原博士の先輩たちの緻密な基礎研究の上に新原博士が発展、研究、それに薬の開発までに到達した。薬開発には普通50億円、100億円、難しい薬になると500億円ぐらい必要である。その金を捻出するためにも、大学教授では動きが鈍くなるので、講師になったり、今は月に一度大学に通うボランティア活動をしている。ただ大学側の配慮で教授の地位は維持できている。 現在は第3治験中で、製薬までのゴールが間近に迫っている。 アメリカのFBA(US Food and Drug Administration) は新原博士の研究、治療薬の開発に非常に協力的である。聞き違いかもしれないが、鎌形赤血球病の治療薬開発のプログラムがFBAに申請されたのが80件ほどあり、そのうち第3治験中までいったのは3ケース、そのなかでも新原博士の研究開発が一番有望視されている。 第2治験のとき、FBAが認めるパッケージの開発を請け負ってくれる企業が現れなかった。そこで博士は一年半企業を訪れ、ようやくFBAが認可してくれるパッケージをある企業が完成させた。パッケージというとただの箱と思いがちであるが、薬の場合、ある一定期間保存していても変質しないものが必要である。 博士は講演の前日、日本(空港内)にいた。講演係の大田さんにフジテレビから電話があった。フジテレビは3月19日放送予定の、「土曜プレミアム」という番組の制作にあたって、新原博士と連絡をとろうとしたが、とれなかった。そこで、新原博士の予定をインターネットで探ってみると、サウスベーセミナーで、12月12日に講演をするという情報を得た。そこで太田さんに電話してきたというわけである。そこで太田さんは博士の会社、エマウスメディカルのマネージャーをしているSさんに連絡し、Sさんが博士に連絡し、博士がフジテレビに連絡するという、見事な連係プレーが実現したのである。これは博士の講演の前に太田さんが披露した裏話である。 フジテレビが博士と連絡をとりたかった理由は、番組でツタンカーメンの死の原因の究明を行なうのに、博士がこの方面の権威であると分かったので連絡してきたのである。はっきり聞き取れなかったが、博士とツターンカーメンの死因との関係は、大体次のようになる ツタンカーメンは若くして死んだ王子であるが、彼の死因は近親結婚による遺伝子的な要因が考えられている。また、鎌形赤血球病を多く発生させる西アフリカ、中央アフリカではない、北アフリカのエジプトで生存していたが、鎌形赤血球病で死んだ可能性がある。このあたりを鎌形赤血球病の権威である新原博士に尋ねたかったのだ。
会社立ち上げ
新原博士は、鎌形赤血球病の研究、薬開発のために会社を立ち上げた。その目標は苦しんでいる患者を救うことであり、開発した後も安価な薬を患者に提供するためである。この崇高な目標を達成するためには現実的に資金が必要である。
資金調達の目的・目標
博士の会社が健全に発展していけば、色々な形で社会に貢献ができる。 ①新しい技術の開発、②会社機能の拡大、③新薬の開発だけでなく、それに伴って、医療機関への貢献、交通、物資流通、食糧確保、住居確保、雇用などができる。 会社発展のためにはどうしても資金が必要である。新薬製造ということから、国からの助成金、その他投資の出どころとして、①事業家の個人資産、②個人投資家、③投資銀行、④証券会社、⑤ 確立された大手企業、⑥ベンチャーキャピタル(VC)などが挙げられる。 資金を受ければ、その資金源への還元が大事になる。そのためにも会社の経営が安定し、持続的に成長させていかなければならない。そのことにより、資金提供者に金が還元され、社員や役員の安定的な給与を与えることができ、社会に存在価値を表示することができ、より会社を発展させることができる。 起業と簡単に言うが、会社を設立するにあたって、正しい目標とそのための綿密な会社経営のノウハウを確立しておかなければならない。一般的に、アイデアがうまれ、それを研究、実践し、実際に成功した製品になるのは、3000分の一の確率だと言われている。エジソンが電球を開発するとき、何千という試作品を作り、ようやく完成品を生み出した。キュリー夫人もラジウムを発見するのに、何千という皿の上での実験を繰り返した。会社を立ち上げることは多くの努力が必要で、リスクが伴う。汗とリスクを覚悟する気持ちがないなら、企業を起こすことなど諦めた方がよい。 新原博士が会社を立ち上げるなかで、ベンチャーキャピタル(VC)との接触があった。結論を先に言うなら、今までにVCからの資金調達を一切受けていない。その理由を博士の経験を基に述べられた。 ベンチャーキャピタル(VC) ベンチャーキャピタル(VC)は、高いリターンを狙う投資会社である。だから企業に投資する場合2年間で少なくとも2倍から5倍のリターンを期待する。そのために経営にも影響力をもとうとする。企業の実質的な成長より表向きの評価を気にする。つまり表向きの評判がよいと株価が上がるからである。そのために上場を促す。また買収も手段の一つとして使ってくる。
買収
VCが参入してくる場合、安く買い取り、それを高く売りつけるのを目的とする。そのため、会社の価値を低く査定してくる。こちらが思っている査定の3分の1、5分の1だと言ってくる。こちらがあせると相手の思惑に引っかかることになる。高値売りするために上場し、広報をたくみにして、売名行為を行なう。そして引退したような著名な人たちを経営陣にいれてくる場合がある。彼らは仕事を理解しているのではなく、ただ単なる外面を良く見せるための工作をするに過ぎない。つまり中身より外側でだけを整えようとする。
乗っ取り、買収
ある場合、会社を乗っ取ろうとする。過半数もしくはそれに近い株数の確保によって、経営陣を入れ替える。創業者を残したとしても、わずかな報酬しか支払うことはない。 買収もVCがよくやる手段である。大手企業と組んだり、また競争相手と癒着して買収する場合がある。例えばAという大企業の自動車会社がある。そして、近頃新しいタイプの車を開発したBという会社があるとしよう。AはBの新しい車の開発のノウハウを知りたいため、B社の買収を謀る。結果として51%以上の株を取得し、B社を吸収する。このような買収は現実の企業間で日常的に行なわれている。 一時VCは飛ぶ鳥を落とす勢いであったが、近頃の彼たちの動きはそれほど芳しいものではない。VC(ベンチャーキャピタル)が一番活躍したのは2001年がピークで、投資した金を2年で取り戻すほどの勢いであったが、2008年では7年もかかっている。それに、非常に低い成功率になっている。例えば、バイオテクノロジー分野において、過去5年間を見ると、すべて失敗しているVCも少なくない。彼らの期待に沿うような急成長する会社などめったにない。また。VCの目利きができる人材が少ない。専門知識が乏しく、経済センスも疑わしい人がVCの人達に多いという。 最近の彼らは非常に焦っている。成功率が高い会社を見つけると、何とか彼らの都合にあうよう会社を惹きつけつつ、会社の問題を過大評価しようとする。また大手企業や企業投資家などと手を組もうとする。リスクを下げるのに躍起になるが、将来性に対する視野が狭い。 彼らのやったことは、「価値のないものを、価値があるように見せかけ、結果として、価値がなくなった」のである。リーマンショックは、このような見せかけの経済の運用の結果なのである。
新原博士の言葉は厳しい。「仕事ができる人はベンチャーキャピタルでなどで働かない」。「なぜこんな人がと思うような人が働いている」
成功例
もちろん、VCが参入し、経営陣にVCが加わり、会社を黒字経営に導くケースもある。VCの性質上、経営目的は利益拡大がすべてであるのは言うまでもない。 企業を立ち上げた時、最初の間は収入減になるのが一般的である。そして、企業として成長し収入が上昇していく。この上昇気流に乗り出した時期にVCを参入させるのは良い。 VCの参入が遅くなる方がよい。そしてVCによる会社査定を最小評価されることを防ぐようにすべきである。またVCの経営参加を最小限にとどめるべきである。VCの投資が会社の利益創出まで支援させ、その後は、出来るだけ早い時期にVC株を買い戻しするのがよい。
まとめ
以上のことからVCの参入は会社にとってリスクをともなうが、VCは会社設立において重要な役割をもつ場合もある。健康的に会社経営を軌道に乗せ、VCとの取引をする場合、出来るだけ遅い時期にするのが望ましい。ただVCの言われるままになる必要はない。そのためにも、早期にVC以外の資金調達先を考えるべきである。 一番大事なことは、会社設立の目的、目標をしっかりともつことが大事である。VCが参入した場合、会社の目的を阻害するような影響力をもたしてはいけない。
エマウスメディカル株式会社の場合
新原博士の会社の場合、鎌形赤血球病の解明と、その患者を救うことである。そのために、会社として健全に発展、経営が重要である。今のところ、上昇気流に乗り、発展しつつある。会社の目的は、患者の救済である。利益を得れば、その金を社会に還元することも会社の目標である。 アメリカの良好企業は利益を社会に還元している。例えば寄付をよくおこなう。この寄付は会社の良いイメージづくりに貢献し、また、利益を社会に還元するという行為が会社のなかでの良好な雰囲気をつくる。そして、社会への還元がそれ以上の金を生むことになる。 実は、新原博士が設立した会社は近い将来VCの参入を検討している。というのは、もはや会社自身が健全に発展し、VCの査定を低く見られることもないし、経営参加も最小限に抑えることが出来る。利益追求だけでなく、利益を社会に還元するという会社の目的を阻害されないだけの基盤をもう作っているからである。
日本の薬開発、認可に厚生労働省は消極的
日本の医療器具開発などは世界でもトップクラスである。ところが薬の開発、そして厚生省から認可される段階までいくのは、欧米などに比べて低い。その原因は厚生労働省の消極的な態度にある。せっかく新しい薬を製薬会社が開発し、厚生労働省(以前は厚生省)に認可を申請しても、認可されるのに時間がかかったり、却下される場合が多い。その原因は厚生省の体質にある。認可しない理由として厚生省の役人がよく使う言葉は「前例がないので」である。 例えばアメリカやイギリスではで認可されている女性の避妊薬の薬がある。それは日本では認可されていない.。この薬は少しのホルモンが入っているだけで、両国ではもう30年以上も使われていて、副作用など報告されていない。そうなのに日本では認可されないという現実がある。 日本の女性が避妊するために産科医に相談すると、この薬ではなく、厚生省から認可された別の薬を渡される。この別の薬はアメリカなどで使われる薬とほぼ同じ成分で、しかもホルモンは10倍も含まれている。このような誰が見ても不都合を日本の厚生労働省は行なっている。 薬とは日進月歩進歩していくものであるが、その新しいもののなかには危険な薬が含まれている。もしその薬によって被害者が出ると、批判、攻撃されるのは厚生労働省である。その危険を回避するために厚生省は薬の認可に、良い言葉を選べば、慎重なのである。 日本では「癌難民」の方がいる。140万人の癌患者のうち70万人が癌難民だといわれている。癌はよく知れれているように激痛をともなう。その激痛に対して麻薬がよく効く。しかし日本の医者は麻薬を使ってくれないという。がん患者はもはや、医者を信用することなく、まさしく「癌難民」となっているのである。新原博士は麻薬投与の例しか話をされなかったが、癌難民が多く現れている理由は他にもあるのだろう。 。
講演録担当:内藤喬生
講師略歴 エマウスメディカル株式会社最高経営責任者
UCLA医学部教授
1959年、東京生まれ。13歳の時に渡米。ハワイで高校を卒業し、カリフォルニア州のロマリンダ大学宗教学部を卒業。同大学医学部卒業。ハーバード大学公衆衛生学修士課程終了。 2000年、UCLA医学部准教授に就任。同年12月にエマウスメディカル社を設立。
2005年、医学部教授。
現在、これまで治療法がないとされてきた、鎌形赤血球病の治療薬を開発するエマウスメディカル社の最高経営責任者であり、今、アメリカの医学界で最も注目されている一人である。
講演内容
はじめに
博士の会社立ち上げと、ベンチャー企業との関係について説明する前に、鎌形赤血球病について説明する。 鎌形赤血球病とはアメリカの黒人の間に広がっている遺伝子による病気。赤血球は普通球状の形をしているが、この病気になると鎌のように変形し、5歳未満で死んでしまうケースが多く、長く生きても40歳ぐらいである。アメリカ黒人の400人に一人ないし500人に一人という確率でかかる。アメリカより西アフリカ、中央アフリカでの発症率の方が高く、そこでは、黒人の50人に一人という割合で発病する。 アフリカからやってきた黒人は、鎌形赤血球病をもつ遺伝子をもって生まれる確率が高い。アフリカはマラリヤ病が多く発生する地域で、マラリヤになって死んでいった人と、治った人がいる。その治った人、つまりマラリアに打ち勝った人の中に、鎌形赤血球病になるDNAの突然変異をおこし、その子孫がそのDNAを受け継ぐようになった。 鎌形赤血球病の基礎的な研究はUCLAでなされた。新原博士の先輩たちの緻密な基礎研究の上に新原博士が発展、研究、それに薬の開発までに到達した。薬開発には普通50億円、100億円、難しい薬になると500億円ぐらい必要である。その金を捻出するためにも、大学教授では動きが鈍くなるので、講師になったり、今は月に一度大学に通うボランティア活動をしている。ただ大学側の配慮で教授の地位は維持できている。 現在は第3治験中で、製薬までのゴールが間近に迫っている。 アメリカのFBA(US Food and Drug Administration) は新原博士の研究、治療薬の開発に非常に協力的である。聞き違いかもしれないが、鎌形赤血球病の治療薬開発のプログラムがFBAに申請されたのが80件ほどあり、そのうち第3治験中までいったのは3ケース、そのなかでも新原博士の研究開発が一番有望視されている。 第2治験のとき、FBAが認めるパッケージの開発を請け負ってくれる企業が現れなかった。そこで博士は一年半企業を訪れ、ようやくFBAが認可してくれるパッケージをある企業が完成させた。パッケージというとただの箱と思いがちであるが、薬の場合、ある一定期間保存していても変質しないものが必要である。 博士は講演の前日、日本(空港内)にいた。講演係の大田さんにフジテレビから電話があった。フジテレビは3月19日放送予定の、「土曜プレミアム」という番組の制作にあたって、新原博士と連絡をとろうとしたが、とれなかった。そこで、新原博士の予定をインターネットで探ってみると、サウスベーセミナーで、12月12日に講演をするという情報を得た。そこで太田さんに電話してきたというわけである。そこで太田さんは博士の会社、エマウスメディカルのマネージャーをしているSさんに連絡し、Sさんが博士に連絡し、博士がフジテレビに連絡するという、見事な連係プレーが実現したのである。これは博士の講演の前に太田さんが披露した裏話である。 フジテレビが博士と連絡をとりたかった理由は、番組でツタンカーメンの死の原因の究明を行なうのに、博士がこの方面の権威であると分かったので連絡してきたのである。はっきり聞き取れなかったが、博士とツターンカーメンの死因との関係は、大体次のようになる ツタンカーメンは若くして死んだ王子であるが、彼の死因は近親結婚による遺伝子的な要因が考えられている。また、鎌形赤血球病を多く発生させる西アフリカ、中央アフリカではない、北アフリカのエジプトで生存していたが、鎌形赤血球病で死んだ可能性がある。このあたりを鎌形赤血球病の権威である新原博士に尋ねたかったのだ。
会社立ち上げ
新原博士は、鎌形赤血球病の研究、薬開発のために会社を立ち上げた。その目標は苦しんでいる患者を救うことであり、開発した後も安価な薬を患者に提供するためである。この崇高な目標を達成するためには現実的に資金が必要である。
資金調達の目的・目標
博士の会社が健全に発展していけば、色々な形で社会に貢献ができる。 ①新しい技術の開発、②会社機能の拡大、③新薬の開発だけでなく、それに伴って、医療機関への貢献、交通、物資流通、食糧確保、住居確保、雇用などができる。 会社発展のためにはどうしても資金が必要である。新薬製造ということから、国からの助成金、その他投資の出どころとして、①事業家の個人資産、②個人投資家、③投資銀行、④証券会社、⑤ 確立された大手企業、⑥ベンチャーキャピタル(VC)などが挙げられる。 資金を受ければ、その資金源への還元が大事になる。そのためにも会社の経営が安定し、持続的に成長させていかなければならない。そのことにより、資金提供者に金が還元され、社員や役員の安定的な給与を与えることができ、社会に存在価値を表示することができ、より会社を発展させることができる。 起業と簡単に言うが、会社を設立するにあたって、正しい目標とそのための綿密な会社経営のノウハウを確立しておかなければならない。一般的に、アイデアがうまれ、それを研究、実践し、実際に成功した製品になるのは、3000分の一の確率だと言われている。エジソンが電球を開発するとき、何千という試作品を作り、ようやく完成品を生み出した。キュリー夫人もラジウムを発見するのに、何千という皿の上での実験を繰り返した。会社を立ち上げることは多くの努力が必要で、リスクが伴う。汗とリスクを覚悟する気持ちがないなら、企業を起こすことなど諦めた方がよい。 新原博士が会社を立ち上げるなかで、ベンチャーキャピタル(VC)との接触があった。結論を先に言うなら、今までにVCからの資金調達を一切受けていない。その理由を博士の経験を基に述べられた。 ベンチャーキャピタル(VC) ベンチャーキャピタル(VC)は、高いリターンを狙う投資会社である。だから企業に投資する場合2年間で少なくとも2倍から5倍のリターンを期待する。そのために経営にも影響力をもとうとする。企業の実質的な成長より表向きの評価を気にする。つまり表向きの評判がよいと株価が上がるからである。そのために上場を促す。また買収も手段の一つとして使ってくる。
買収
VCが参入してくる場合、安く買い取り、それを高く売りつけるのを目的とする。そのため、会社の価値を低く査定してくる。こちらが思っている査定の3分の1、5分の1だと言ってくる。こちらがあせると相手の思惑に引っかかることになる。高値売りするために上場し、広報をたくみにして、売名行為を行なう。そして引退したような著名な人たちを経営陣にいれてくる場合がある。彼らは仕事を理解しているのではなく、ただ単なる外面を良く見せるための工作をするに過ぎない。つまり中身より外側でだけを整えようとする。
乗っ取り、買収
ある場合、会社を乗っ取ろうとする。過半数もしくはそれに近い株数の確保によって、経営陣を入れ替える。創業者を残したとしても、わずかな報酬しか支払うことはない。 買収もVCがよくやる手段である。大手企業と組んだり、また競争相手と癒着して買収する場合がある。例えばAという大企業の自動車会社がある。そして、近頃新しいタイプの車を開発したBという会社があるとしよう。AはBの新しい車の開発のノウハウを知りたいため、B社の買収を謀る。結果として51%以上の株を取得し、B社を吸収する。このような買収は現実の企業間で日常的に行なわれている。 一時VCは飛ぶ鳥を落とす勢いであったが、近頃の彼たちの動きはそれほど芳しいものではない。VC(ベンチャーキャピタル)が一番活躍したのは2001年がピークで、投資した金を2年で取り戻すほどの勢いであったが、2008年では7年もかかっている。それに、非常に低い成功率になっている。例えば、バイオテクノロジー分野において、過去5年間を見ると、すべて失敗しているVCも少なくない。彼らの期待に沿うような急成長する会社などめったにない。また。VCの目利きができる人材が少ない。専門知識が乏しく、経済センスも疑わしい人がVCの人達に多いという。 最近の彼らは非常に焦っている。成功率が高い会社を見つけると、何とか彼らの都合にあうよう会社を惹きつけつつ、会社の問題を過大評価しようとする。また大手企業や企業投資家などと手を組もうとする。リスクを下げるのに躍起になるが、将来性に対する視野が狭い。 彼らのやったことは、「価値のないものを、価値があるように見せかけ、結果として、価値がなくなった」のである。リーマンショックは、このような見せかけの経済の運用の結果なのである。
新原博士の言葉は厳しい。「仕事ができる人はベンチャーキャピタルでなどで働かない」。「なぜこんな人がと思うような人が働いている」
成功例
もちろん、VCが参入し、経営陣にVCが加わり、会社を黒字経営に導くケースもある。VCの性質上、経営目的は利益拡大がすべてであるのは言うまでもない。 企業を立ち上げた時、最初の間は収入減になるのが一般的である。そして、企業として成長し収入が上昇していく。この上昇気流に乗り出した時期にVCを参入させるのは良い。 VCの参入が遅くなる方がよい。そしてVCによる会社査定を最小評価されることを防ぐようにすべきである。またVCの経営参加を最小限にとどめるべきである。VCの投資が会社の利益創出まで支援させ、その後は、出来るだけ早い時期にVC株を買い戻しするのがよい。
まとめ
以上のことからVCの参入は会社にとってリスクをともなうが、VCは会社設立において重要な役割をもつ場合もある。健康的に会社経営を軌道に乗せ、VCとの取引をする場合、出来るだけ遅い時期にするのが望ましい。ただVCの言われるままになる必要はない。そのためにも、早期にVC以外の資金調達先を考えるべきである。 一番大事なことは、会社設立の目的、目標をしっかりともつことが大事である。VCが参入した場合、会社の目的を阻害するような影響力をもたしてはいけない。
エマウスメディカル株式会社の場合
新原博士の会社の場合、鎌形赤血球病の解明と、その患者を救うことである。そのために、会社として健全に発展、経営が重要である。今のところ、上昇気流に乗り、発展しつつある。会社の目的は、患者の救済である。利益を得れば、その金を社会に還元することも会社の目標である。 アメリカの良好企業は利益を社会に還元している。例えば寄付をよくおこなう。この寄付は会社の良いイメージづくりに貢献し、また、利益を社会に還元するという行為が会社のなかでの良好な雰囲気をつくる。そして、社会への還元がそれ以上の金を生むことになる。 実は、新原博士が設立した会社は近い将来VCの参入を検討している。というのは、もはや会社自身が健全に発展し、VCの査定を低く見られることもないし、経営参加も最小限に抑えることが出来る。利益追求だけでなく、利益を社会に還元するという会社の目的を阻害されないだけの基盤をもう作っているからである。
日本の薬開発、認可に厚生労働省は消極的
日本の医療器具開発などは世界でもトップクラスである。ところが薬の開発、そして厚生省から認可される段階までいくのは、欧米などに比べて低い。その原因は厚生労働省の消極的な態度にある。せっかく新しい薬を製薬会社が開発し、厚生労働省(以前は厚生省)に認可を申請しても、認可されるのに時間がかかったり、却下される場合が多い。その原因は厚生省の体質にある。認可しない理由として厚生省の役人がよく使う言葉は「前例がないので」である。 例えばアメリカやイギリスではで認可されている女性の避妊薬の薬がある。それは日本では認可されていない.。この薬は少しのホルモンが入っているだけで、両国ではもう30年以上も使われていて、副作用など報告されていない。そうなのに日本では認可されないという現実がある。 日本の女性が避妊するために産科医に相談すると、この薬ではなく、厚生省から認可された別の薬を渡される。この別の薬はアメリカなどで使われる薬とほぼ同じ成分で、しかもホルモンは10倍も含まれている。このような誰が見ても不都合を日本の厚生労働省は行なっている。 薬とは日進月歩進歩していくものであるが、その新しいもののなかには危険な薬が含まれている。もしその薬によって被害者が出ると、批判、攻撃されるのは厚生労働省である。その危険を回避するために厚生省は薬の認可に、良い言葉を選べば、慎重なのである。 日本では「癌難民」の方がいる。140万人の癌患者のうち70万人が癌難民だといわれている。癌はよく知れれているように激痛をともなう。その激痛に対して麻薬がよく効く。しかし日本の医者は麻薬を使ってくれないという。がん患者はもはや、医者を信用することなく、まさしく「癌難民」となっているのである。新原博士は麻薬投与の例しか話をされなかったが、癌難民が多く現れている理由は他にもあるのだろう。 。