盲腸で入院した彼女を見舞うために、僕は病室に足を踏み入れる。
そこで目にしたのは、彼女のとびきりの笑顔。
「ねえ、このキーボード、可愛いでしょう?」
小説家を目指している彼女は、
病室に自前のパソコンとキーボードを持ち込んでいた。
「どうしたの、それ」
「奮発して買っちゃった」
えへへ、と笑いながら、彼女はキーボードを楽しそうに連打する。
その動きに合わせて、かちゃかちゃと軽やかな音が部屋中に響く。
「メカニカルキーボードっていうの。ごついデザインが多いんだけど、これはすごく可愛くて」
花水木をあしらった薄紅色のそれは確かにものすごく可愛いらしい。
(君の笑顔に勝るものはないんだけどな……)
そんな言葉を声をする勇気はなくて。
まるで楽器を奏でるかのように夢中でキーボードを叩く君を、
僕は黙って見つめていた――。
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