白露とは名ばかりの熱帯夜。梓は一人、バーのカウンターに座り、赤ワインをあおる。
「ちょっと飲みすぎたかな……」
元々お酒は強くない。何か口休めになるものをと、リクエストして出てきたのは、薄暗いカウンターでもよく映える、黄金のカクテル。
シンデレラです、と差し出されたそれを口に含み、
梓は風変りな妄想に耽る。
「このまま、溶けてしまえたらいいのに……」
この甘酸っぱい液体のように、溶けてしまえたらいい。
そしたらきっと忘れられる。
この暑苦しい夜も、ぎらぎらと照り付ける太陽も、全て思い出の箱に閉じ込めて、鍵をかけて、美しい包装紙に包めばいい。
そうして自分は鍵ごと溶けてしまえば、誰もその箱は開けられない。もう二度と、蘇ることはない、鮮烈な思い出。
梓は再びグラスを傾け、黄金の液体を舌で転がした――。
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