伽耶にとって、天照の跡継ぎとして育てられた、
神王家の姫巫女にとって、
終末伝説はどんな意味を持っていたのだろう。
自分が太陽を取り戻して世界を救うわけでも、
新たな太陽として世界を照らすわけでもない。
得体の知れない「中ツ国」とやらからやって来た、
「地平線の少女」とやらに、お株を奪われてしまう。
そんな言い伝えを、快く思っていたのだろうか。
神王家や、天照や、
その継承者たる自分を称える「神話」ではなくて、
自分たちとは違う人間が「救世主」として祭り上げられる。
そんな言い伝えを、果たして素直に受け入れられたのだろうか。
そんな言い伝えを、人々が信じていることを、快く思っていたのだろうか。
伽耶自身には、世界を治める意思も、
守る覚悟も乏しかったとしても。
月読の娘として、天照の跡継ぎとして、
蝶よ花よと育てられた姫君。
そんな彼女が言い伝えに触れることは、
どんな意味を持つのだろう。
もしや周囲の気配りによって、言い伝えに触れることすら、
阻まれていたのだろうか。
けれど、それを彼女の叔母である天照がよく思うだろうか。
自分の代か、それとも次の代か。
いつ訪れてもおかしくはない「世界の危機」への「対応」を、
まったく教えないなんて、そんなことがあるだろうか。
天照の職を譲るその時に、わざわざ一から話すのだろうか。
何も知らなすぎる姪に、一から教えなければいけない状況で、
職を譲ろうなんて思えるのだろうか。
世間で知られていることすら知らない姪に、
「天照としての真の役目」とやらを伝えることなんてできるのだろうか。
「終末伝説は知っていますね?」から初めて、「実は……」と打ち明けるのと、「終末伝説というのがあります。それはこういうもので……」と一から伝えた上で、さらに「実は……」と話すのとでは、まったく伝わり方が違う気がする。
正直、後者なら、私が天照なら、
不安すぎて職を譲ることなんてできない。
もし、自分の次の代で、
計画を発動させなければいけないほど、
世界が病み荒んでしまったとしたら。
そんなとき、天照を継ぐ直前まで、
言い伝えすらまったく知らなかった人間が、
ちゃんと計画を発動させられるなんて思えない。
どうしていいかわからないまま、覚悟なんてできないままに、
再生への道を開かずに、
みすみす世界を完全に死に絶えさせてしまう気がする。
そんな危険性がある状態で、職を譲ることなんてできない。
そんな恐ろしいことはできない。
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