為政者側とは異次元の「光」
10月
7日
神王家の姫巫女にとって、
終末伝説はどんな意味を持っていたのだろう。
自分が太陽を取り戻して世界を救うわけでも、
新たな太陽として世界を照らすわけでもない。
得体の知れない「中ツ国」とやらからやって来た、
「地平線の少女」とやらに、お株を奪われてしまう。
そんな言い伝えを、快く思っていたのだろうか。
神王家や、天照や、
その継承者たる自分を称える「神話」ではなくて、
自分たちとは違う人間が「救世主」として祭り上げられる。
そんな言い伝えを、果たして素直に受け入れられたのだろうか。
そんな言い伝えを、人々が信じていることを、快く思っていたのだろうか。
伽耶自身には、世界を治める意思も、
守る覚悟も乏しかったとしても。
月読の娘として、天照の跡継ぎとして、
蝶よ花よと育てられた姫君。
そんな彼女が言い伝えに触れることは、
どんな意味を持つのだろう。
もしや周囲の気配りによって、言い伝えに触れることすら、
阻まれていたのだろうか。
けれど、それを彼女の叔母である天照がよく思うだろうか。
自分の代か、それとも次の代か。
いつ訪れてもおかしくはない「世界の危機」への「対応」を、
まったく教えないなんて、そんなことがあるだろうか。
天照の職を譲るその時に、わざわざ一から話すのだろうか。
何も知らなすぎる姪に、一から教えなければいけない状況で、
職を譲ろうなんて思えるのだろうか。
世間で知られていることすら知らない姪に、
「天照としての真の役目」とやらを伝えることなんてできるのだろうか。
「終末伝説は知っていますね?」から初めて、「実は……」と打ち明けるのと、「終末伝説というのがあります。それはこういうもので……」と一から伝えた上で、さらに「実は……」と話すのとでは、まったく伝わり方が違う気がする。
正直、後者なら、私が天照なら、
不安すぎて職を譲ることなんてできない。
もし、自分の次の代で、
計画を発動させなければいけないほど、
世界が病み荒んでしまったとしたら。
そんなとき、天照を継ぐ直前まで、
言い伝えすらまったく知らなかった人間が、
ちゃんと計画を発動させられるなんて思えない。
どうしていいかわからないまま、覚悟なんてできないままに、
再生への道を開かずに、
みすみす世界を完全に死に絶えさせてしまう気がする。
そんな危険性がある状態で、職を譲ることなんてできない。
そんな恐ろしいことはできない。