炊き出し
7月
4日
山道を降って家に帰るところだ。
島の西側にはあまり行くことがなく、カーブの多い山道にいつも以上に神経を使う。
雲行きがあやしい。スコールがやって来る気配。
しばらくすると道路が既に濡れていた。この辺りでは雨はもう過ぎたのかもしれない。
海沿いの小さな集落を過ぎて、山道を上り始めると水平線が見えた。波はそれほ荒くはないが、空と同じ濃いグレー色をしている。
と、車が何台か立ち往生していた。この先に崖崩れがあって、前には進めないのだと言う。まだ「通行止め」の看板などもないところを見ると、崩れたのはつい今しがたのことなのだろう。
さて、困った。どうすれば良いものか。
車では帰れないことは確かだ。島を逆回りして帰るには遠過ぎるし、雨の降っている方角に進むことにもなる。それにその先に崖崩れがないとは言いきれない。
他の人達は誰かに連絡しながらとりあえず車を乗り捨てて歩き出した。わたしもそれに習って、バックを肩に歩く。山を下ると次の集落に入る。そこまで行けばバスに乗れるかもしれない。
とぼとぼと歩いていると、向こうから姉2と姉3が自転車でやってきた。前にカゴのついているママチャリだ。わたしは携帯で姉たちに連絡もしなかったので、心底驚く。
ーなんでここに?
ー崖崩れっち言うからよ
姉2のカゴには生成り色の袋が入っていた。中身は何かわからない。何の気なしにそれをじーっと見ていると、姉3が
ー何か食べていこう
と言った。え?こんなところで?と驚くと同時に、そこがいつの間にかH浜と呼ばれる埋立地の集落だと気付いた。H浜に食べるところなんてないじゃないか、と思っていたら、姉3が
ーあそこにしよう
と言うところを見ると、そこはカウンター席の小料理店だった。対面式の厨房には梅宮辰夫が真面目な顔で汁ものをよそっている。姉3は
ーかやくご飯が美味いらしいよ
と言う。姉2は、食べていこう食べていこう、と喜んでいる。わたしは、急に置いてきた車のことが気になって、
ー車、どうしよう。
とふたりに声をかけるのだが、姉たちは車はいいからいいから、と取り合わない。
わたしは、梅宮辰夫がわたしたちみたいなわらわらした姉妹をお客さんとして迎えてくれなさそうな気がする。そんなわたしを見て、姉3が
ーいつもあそこで炊き出ししてる。あそこがいちばん美味い!
と言っていた。
・・・
昨日の朝の夢。