鉄を叩き サンダーの火花で ズボンには穴を空け 疲れた十代の身体には おばちゃんの 生姜焼き定食がしみた おまけの大盛りに 当時は喜びだけだったけど 今頃になって泣けてくる ああ おばちゃんの 生姜焼き定食が食べたいよ
軒下から 雨に濡れゆく 若さは消えても 雨模様に わくわくしている 傘がなくとも 待ち人がいなくとも そこに居れば 言葉が消えてゆく たんたんたん その響きが ひんやりと弾んで 乾いたこころを 濡らしてゆく
6月にもなれば そりゃ むしむしべたべたくさくさ 紫陽花にカタツムリはいないけど テントウムシが歩いている アリさんはスキップ気味で走っている うーんうーんと耳元に近寄るカ 僕はヨイヨイヨーイと 踊るつもりないけど手を返す 背中の窪みを流れる汗は パンツのゴムのところで捕獲さ
いかてるよ きいいすもいてんきだす 最初はなんだか 言葉が凄いことになっていたけど それでも充分に通じた 母は 実家で掃除、洗濯、野菜作りと 元気に過ごしているが 八十歳を越えて心配になり スマートフォンを渡した 母ちゃん メールを教えるから 毎日なんか送ってくれ なんでもいいよ 「生きているよ」でもいいからさ もしメールが来ない時は なんかあったんだと思って 電話するなり こっちに飛んで来るからさ そうかい それは心強い話だね 母は画面のタッチが強く長く 凸のあるボタンを押すようして 違う画面が出てしまう 何度教えても なかなか上手くいかない こりゃ私には無理みたいだね と、つぶやく母 それから 週末になると特訓が始まった 母にとっても この歳で新しいことなんか と思いながらも頑張っていたようだ 母が諦めないよう メールをするために 必要な操作方法だけ書いて それを見ながら ひとりでやってもらった やはりふと忘れてしまい 画面の長押しで上手くいかない そこでタッチペンを購入し 母に操作してもらう それでもその癖は直らない 母ちゃん そこを押す時にポッと言いながら 押してみてよ ポーンじゃないよポッだよ それだよ母ちゃん 私は心の中でヨシャと叫んだ この操作が出来るまで 長い道のりだったような気がする 文字を入力しながら ポッと言う母は真剣だった 言葉が連なると 嬉しそうな顔を見せた ポッポッポッ(鳩ポッポ) ポッポッポッ(鳩ポッポ) ポッポッポッ…… 母ちゃん「鳩」を 歌っているみたいだね そんなひと見たことないよ 先生の言う 通り やっているだけでしょ 久しぶりに 腹を抱え親子で笑った 最近は花や野菜の写真が送ってきたり メールにスタンプを入れたり ビデオ通話もするようになった お互いに諦めなくてよかった 幾つになっても 新しいことを開拓するのは 生きる活力になるだろう 「鳩」の歌に合わせ 今朝も母からメールが届く 生きているよ 今日もいい天気ですね
詩のマクラも ひんやりと涼しげだったり いきなり雷が光って びしょ濡れにされたり 入り口はワクワクするのだ 詩のサゲは ちょっと微妙な感じだ 言いたいこと 伝えたいことを すべて語ってしまえば 読み手が完成させる作品の 楽しみを奪ってしまう 「………………」へ 誘うサゲもある
僕は最近 自分を測っている どうやら地図を作るには 必要みたいだ しかし正確に測るには ひとと比べてしまう 悪い癖がある そして デカ過ぎる地図を作っても 歩けなければ意味がない 小さすぎても ぜんぜん面白くもない 地図を片手に いずれ旅に出る まずは 僕を正直に測ることから
タバコをやめ 爪を齧るようになり 指をしゃぶるようになり なんだかイライラして うぎゃーうぎゃーと 泣き始めました そしてサチコは私を抱き抱え 歌うのでした 折れたタバコの吸殻で 男の嘘がわかるのよ と
ずいぶんと 俺は俺を忘れていたよ 昨日の雨 いつもの轍に溜まる水となり そこから青空を見つめ 風に気分よく揺れながら あーだのこーだの考え ゆるゆるに透過する 清々しい俺を感じては 濁りのない幸せとかいって 笑っている素っ頓狂 ああ好きだな 世間とは遠いところで この嵌って守られ 俺がどんな人間だとしても 透明に帰る俺がいる