万人の幸福饅頭
11月
28日
引き込みレール跡のどん詰まりに
事務所はあった
背中にモッコはあるのか
はい それだけはなんとか
万人の幸福という
饅頭を仕入れにきた
赤いのぼりには
千個売ったら一モッコ
それは使命とあった
万人の幸福と銘打つ
それでハピー 違うかね
千個売ったら使命は終わり
死んでいい
なに、また千個売ればいいんだがね
背中に一モッコを背負って
床に敷かれたダンボールの
僅かな段差につまづいた
夜もふけて
使命のアイロン式幸福スタンプを
エネル源につないで待った
隅から這い出した
金型が甘い玩具のようなものは
赤熱して
三本の湯気印を浮かべていた
集中力がいった
ほのかな焦げの香りが
逃げながらわらうこどものように満ちてくる
ジュッ
冷えた
雪明りを踏み
ジュッ
目指している黒ゴム長靴がある
寒風に
ジュッ
さらされた肌は
生臭い匂いにつつまれる
あれは無毛のいきものの
本然の匂い
ジュッ
じゃないか
みごとだ
ぶれのない均一の印じゃないか
腱がしびれて喜びにあふれている
ああ何かないか
ほかに何か
万人のなんでもいいだろう
むせかえる
この朦朧は
わたしには窺いしれない
餡こへの兆しではないだろうか
それも
真坂
ふる三月ならぼた雪の静けさ
洗いもしてないカーテン窓から
むらさき餡こが
ひとつと這い出してくるのが
薄目にみえる
2009年冬
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