貝と生まれて人に眠る
11月
28日
薄いセルの瞳
ひとつ ほどけ
くるぶしの夢から
身を這い出しわたしの五月の寝床で
おまえを柩とするという
乱暴な五月の指先で
わたしの舌が混紡にほどけ
つややかな貝の
渦巻きをなぞると
わたしの脚のあいだに
貝は眠り
世界の未明を
るるる
僅か回した
あれは明滅する烏
ゆらふら 推進する硝子質
みるみる尾につけて
渚にのまれる
二畳紀二億四千万年の灰の虹
暁闇に貝は
黴に濡れ
ひと茎の夢を背負って
光裂の渚を這った
海で大量の喪があったのだと
貝は白いカケと黒い脂をすこし吐いた
それは人間のものですかと
わたしは尋ねた
黙って貝は
草むらを吸った
ひとの 意識が
地軸を 狂わすとき
傾く 葬列の海 一夜
存在しながら
存在しないも 同然
の霊が 大量に うまれる
名は名 みずから 喪を
執らねば ならない
海域のやわらかさ
あの人かもしれない
あの人を導く おなじ指で
押し返す 汀をにぎる
薄いセルの瞳
ひとつ 回し
貝とうまれて
人に眠る
人にうまれて
貝となる
地上の ことばが
貝に うまれ……
あたたかい
潮みづながし
南洋の彫像の歯をみせて
貝は
倒れた