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現代詩の小箱 北野丘ワールド

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ゴンドラ巡礼

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首がもどるところでしたか
逆様ですよ
願掛け地蔵さま
一緒に
どうです
夜のお散歩は
逆様で首ふる地蔵を背にする
白鷺二丁目
ふいに地蔵のもと石がいう
(ものいわぬこどものゆかわたな)

  止めてください
  男が残した鞄が危険です
  バスの運転手はハンドルを切る
  また山中だ いちめん茶色の地肌 窓の下は崖
  道路が見えない 巨大なすり鉢 見あげる
  そのむこうも山また山

降りる
白鷺二丁目でわたしは降りる
酔っても朦朧としてもなにがなんでも
終点だけ電光させて
窓に手をついたまま呆然とゆくだけのこんなバス
鞄など怖くはない 前触れにすぎない
「そんなことが ここで できるわけがない」
あの運転手
そういった
白鳥をどこまでも追うひとよ
天湯河桁(あめのゆかわたな)
胸先にまで髭がのびても
ものいわぬこどもが
あぎといったその白鳥
(わたしは追って)きたとでも

速度を緩めずに車が
大通りを一本入った三叉路を侵入していく
「どっちでも好きにさらせ」
すすけた祠に埃が舞った
「ワンカップ飲んでくだまかないでください
 つげの木地蔵さん」
とろんとすり減った目の輪郭がみるみる戻り
横のつげの木がいう
「おまえ変な駕籠に乗っとる」
「えっ」

  むきだしの断層 青銅いろの急流
  岩盤の台地 わずか ゆれる草                        
  切れるまで 延びている道                          
  眼下
  それら一瞬

「しかもまっ白…ウウム
 ゴンドラ巡礼!」

目の前を扉がしまる
誰か誰か
ゴンドラからわたしは電話する
野太い女の声の交換手が番号を復唱する
なんでこんな旧式なことが
観光地にメルヘンにあるようなゴンドラ
見せかけだけにきまっている
はやく誰か
ゴンドラは気がすむまでというように動かない

  嵌め込み窓ふたつ
  変容のお舟
  やがて光さしこみ
  白鷺たちの渓谷を
  ゆられてゆく

この追分
どちらをゆこうと

*天湯河桁(あめのゆかわたな)…日本書紀にのっている古代豪族。垂仁天皇の皇子誉津別皇子(ほむつわけのみこ)が髭が生えても物いわず、白鳥を見て「これは何だ」と片言を発したので、命を受けて出雲まで白鳥を捕まえに行った人物。

#黒筒の熊五郎

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