怖いものなんてなかった
と、いうか
怖いもの知らずで
僕は生きてきたのだから
それまでも幸せだった
さあ、どうだろう
たぶん、それはそれで良し
と、いうことにしておこう
ちょっとこっち向いて
と、彼女がいうから
振り向いて
ああ、髪からいい香り
なんか幸せ
と、思いきや
はい、抜いちゃった
彼女が僕の胸を指で摘んだ
何も見えなかったが
心臓の毛を
抜いてあげたという
?
どうした彼女
と、思ったけど
まあ、いつもの彼女といえば
そうなのである
ひとの見えないものが
見えるらしいから不思議だ
抜かれた毛
僕の変化を自覚し始める
遊んでばかりいること
貯金がまったくないこと
自分の将来のこと
彼女が僕から離れていくこと
気に出すと不安ばかり
僕は彼女に聞いてみたんだ
なんで心臓の毛を抜いたの、と
彼女はふたつの言葉で微笑む
深み、カッコいい、と
僕は浅く、カッコ悪かったのか
うーん、そんなことは
ある、
彼女をリスペクトしているから
たぶんその通りだ
だからその日から僕は
悩める男を受け入れたのだ
そして数日後、彼女に聞いてみた
僕、変わった、と
うーん……
たこ焼き食べに行こう、と