破れない風船は お世話になったひとたちへ 垂れ下がった糸を振りながら 感謝の気持ちを伝えに行きます 少しの間 この世界を自由に飛べるのです 私も風船になりました 先ほどから挨拶まわりをしています 飛んでいるのは夢のようで なんだか不思議な気持ちがします カラスはカァーカァーと鳴きながら 私のことを見ています けれどもクチバシで突くことはしません その黒い出で立ちで親近者のように 喪に服しているのだろうか 懐かしい小学校が見えてきました 私が描いた絵はまだ飾られているだろうか 見てみたいけれど そこまで時間はないようなので 家族のところへ向かいます なんてことでしょう 私の身体を囲み家族が泣いています ろくな人間ではなかったのですが いざ風船になると ちょっといいひとになるようです 家族には ありがとうの言葉しかありません この世界で共に過ごせた幸せ 私も泣いています ああ どんどん空の上にあがり とっても速く景色は流れています もう雲の上まで来てしまいました なんだかとても懐かしい匂いがします そして おふくろと親父の声が聞こえ どんどん光の世界に近づいています ただいま 帰って来ました お前の帰りをずいぶんと待ったよ いい人生だったんだね ご飯の準備はできているから いっぱい食べるといい