ありがとう風船
12月
23日
お世話になったひとたちへ
垂れ下がった糸を振りながら
感謝の気持ちを伝えに行きます
少しの間
この世界を自由に飛べるのです
私も風船になりました
先ほどから挨拶まわりをしています
飛んでいるのは夢のようで
なんだか不思議な気持ちがします
カラスはカァーカァーと鳴きながら
私のことを見ています
けれどもクチバシで突くことはしません
その黒い出で立ちで親近者のように
喪に服しているのだろうか
懐かしい小学校が見えてきました
私が描いた絵はまだ飾られているだろうか
見てみたいけれど
そこまで時間はないようなので
家族のところへ向かいます
なんてことでしょう
私の身体を囲み家族が泣いています
ろくな人間ではなかったのですが
いざ風船になると
ちょっといいひとになるようです
家族には
ありがとうの言葉しかありません
この世界で共に過ごせた幸せ
私も泣いています
ああ
どんどん空の上にあがり
とっても速く景色は流れています
もう雲の上まで来てしまいました
なんだかとても懐かしい匂いがします
そして
おふくろと親父の声が聞こえ
どんどん光の世界に近づいています
ただいま
帰って来ました
お前の帰りをずいぶんと待ったよ
いい人生だったんだね
ご飯の準備はできているから
いっぱい食べるといい