ベランダの椅子に座り込むと 猫のハナとユメが黒目を大きくして 手すりに上がり通りを見ている タイヤの擦る音は 波のように打ち寄せては返す街の海 風は風鈴をやさしく鳴らし コーヒーの程よい苦味に いつかのどこかの憧れを夢みている 大波のトラックが過ぎてゆく 小波の乗用車は追いかける 私は揺れない船の上で漕ぐこともなく 周りを動かし繋がってきた時間の不思議に すこし戸惑いながら残りのコーヒーを口にする そして枯葉が迷い込んだ床に横になると 説明しようもない涙が流れ出しては その心地よさに救われていた ユメとハナはもう部屋へ戻っている 私はもう少し街の海に浮かんでいたい