誰も居ない実家の玄関を開ける こもった空気 引っ越してきた当初の材木の匂いがして 四十年前がすぐそこにある不思議 母は故郷の山形に帰郷 私は頼まれた部屋の換気と庭に水を撒く すでに庭には水が撒かれているようだ 近所の親切で潤っている花や木 有り難い思いに感謝して 横になると心地よい風が抜けて 近づいては遠ざかる電車の通過する音 身体は床に溶けてしまいそうだ そろそろ戸締りをして帰ろう 母のいない実家はもの足りない 父の位牌に手を合わせ また来るよ そう言って戸締りをしながら 母の書き置きをもう一度読むと 「申し訳ない」と言う言葉が 「申し沢ない」と書かれていて クスっを実家に置いていった