メキシコ湾に臨む人口約31万人の港湾都市、米南部テキサス州コーパスクリスティ。太平洋戦争に従事し、1991年の退役後は博物館として市民や観光客に親しまれている空母レキシントンの艦内で7月、米海軍や日本総領事館の関係者らが出席して「寄せ書き日の丸」と呼ばれる日章旗の返還式典が開かれた。 「寄せ書き日の丸」は出征する兵士の無事を祈り地域や職場ごとに名前などを書き込んで贈られたもの。米兵らの中には「戦利品」として戦場から持ち去る人もいた。博物館は94年に寄贈を受けたが、入手の詳しい経緯は分かっていなかった。 旗は神風特攻隊員のものだと伝えられており、来訪者が写真に収め専門家に問い合わせたことをきっかけに持ち主の特定が進んだ。実際は特攻隊員ではなく、サイパン島へ出征した岐阜県の男性のものと判明。連絡を受けた博物館は遺族への返還を快諾した。 式典では坂本九さんの「上を向いて歩こう」が流れる中、展示室の壁から日章旗の入った額が取り外され、丁重に会場に運び込まれた。出席者は起立して静かに様子を見守り、拍手で祝福した。戦時の恩讐を克服して戦没者への敬意を示す心温まるセレモニーだった。 レキシントンは太平洋戦争で特攻隊機の攻撃を受け、乗組員49人が命を落とした。その艦内で日米両国の関係者が戦争と平和に共に思いをはせる―。当時の人々が1枚の旗に込めた願いは、約80年後のわれわれに形を変えて大切なものを届けてくれたように思う。 (返還は)日米の平和を象徴するものだ。関わることができて光栄だ」と海軍OBのスティーブ・バンタ館長。旗の帰郷を、泉下の持ち主も喜んでくれていると思いたい。 コーパスクリスティ共同 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/262624