かけひき (カーネル笠井)
10月
30日
青雲高校の1年生投手の星飛雄馬が、甲子園への地区予選で苦戦しながらもかけ引きに勝ち、試合にも勝利したいきさつです。0対0の同点で迎えた9回表、2アウト、ランナー無しの場面です。相手の弱点をつく巧妙なピッチングを続けてきた相手投手がバッターボックスに立ちました。そして普通は有り得ないはずの投手前へのバントをしたのです。意表をつかれましたが、星が何とかそれを処理しチェンジになりました。そして9回裏、得点圏にランナーがいる場面で今度は星に打順が回ってきました。そのときまで星はずっと相手投手があの場面でしたバントの意味を考えていましたが、まだ真意はつかみかねていました。バッターボックスに立ち、相手投手を見ると大きく肩で息をしています。そのとき、星は初めてその意味に気が付いたのです。「自分がこんなに疲れているのだから、相手投手(星)も苦しいはずだ。彼の前にバントをすればきっとその処理を誤って塁に出ることができるはずだ。」と考えたことが。そして星も同じ選択をしました。星よりも疲れていたのでしょう。相手投手はこれの処理を誤り、得点が入って星のチーム、青雲高校が勝つという場面です。
試合前日の検量の日、まず世界チャンピオンの内藤大助選手が服をぬいで検量を受けます。引き締まった体で、体重はリミットピッタリです。次は挑戦者の亀田大樹選手です。彼が上に来ていた服をぬいだとき、思わず「お〜」と声を出してしまいました。テレビ中継の中の取材記者達も同時に「お〜」という歓声を上げていました。筋肉質の上半身にではなく、おそらくそれに比べてあまりにも細く、マッチ棒のように見える腹部に対してでしょう。もう一週間は何もお腹の中に入れていないといった様子です。検量の結果は内藤選手と同じくリミットピッタリでした。このとき、チャンピオンの内藤選手はきっとこう考えていたのだと思います。“自分も苦しい減量をしてきたけれど、亀田選手はそれをはるかに上回っている。きっと体重を10kg以上は減量したんじゃないだろうか。口では強がりを言っているけれど、本当はフラフラにちがいないだろう。”
試合当日、亀田選手のお腹はもどっていました。きっと昨夜はたっぷりと食事をしたにちがいありません。しかし、たった一晩では体力がもどるはずはありません。試合前、チャンピオンはジャブの練習をしたり、ステップをしたりと必要以上に体を動かしています。はた目には「おいおいチャンピオン、そんなにイレ込んで大丈夫なの。挑戦者は全く無駄な動きはしないで体力を温存しているよ。」このときには、すでにチャンピオンによるかけ引きが始まっていたのだと思います。“自分は試合前にでもこんなに動いて平気なんだ。”と見せつけていたのです。試合もそれをそのまま物語るような内容でした。チャンピオンはヒットアンドウェーでさかんに動き回ります。挑戦者はガードを固め、打たれながらも一発のチャンスをうかがいます。しかしチャンピオンの体力には全く付いていけませんでした。後半はチャンピオンに余裕さえ見られました。ただ、右目の目尻を切って出血していたので、これ以上サミングの反則を受けてTKO負けになるのはいやだと考えたのか、つい挑戦者の後頭部をポカッとやって、先に減点をされてしまいましたが。
まだ体も伸びざかりの18才の挑戦者には、きっとこのクラスでの試合はもう無理なのでしょう。試合後のチャンピオンもそれを感じていたはずです。“もし再戦することがあったとしたら、今度はもっと楽に勝てるんじゃないか。”ということを。だてや幸運で世界チャンピオンになれるはずがありません。かけ引きにおいてもしっかりとしたしたたかさを持っているなと感じました。
中学受験でも同じようなことが言えます。難しい問題に出会ったときにどう考えるかです。「自分にとって難しいのだから、他の受験生にとっても難しいにちがいない。ここで時間を取られると失敗につながるから、この問題はとばして自分にできる問題から先に手をつけよう。」こう考えられないとなかなかその問題はとばせません。とばしたとしても何かうしろめたさのようなものが残って、その後の問題に集中できないのです。入試問題の背後には、それを作問した希望中学の先生の考えが流れています。この学校はこういうタイプの問題が好きなんだ。設問の前半は簡単で後半は難しくなっているので、解けなくても大丈夫なんだ。など、中学受験生なりのかけ引きはどうしても必要になります。『かけ引き』とか『したたかさ』と書くと何か悪いイメージになりますが、良く考えれば自然に出てくる問題対処法なのだと思います。ただ解法をつめ込むだけじゃなく、問題の背後にいる先生とのかけ引きを楽しむ気持ちで勉強をすれば、もっとあきずに続けられるはずです。指導員に相談し、しっかりとした対策を練りましょう。
(カーネル笠井)