まだ私が30代に入ったばかりのころ、いたずらがすぎる中3の男子に、軽くピンタをしたときのことです。それを見ていた6年生のT君。その日から態度が改まって、宿題もきちんとやってくるようになり、授業も集中して聞くようになったのです。ところが、事あるごとに「先生がこわいから忘れないようにしているんだ。」とか、「ちゃんと勉強しないと、先生にピンタされちゃうから。」としつこく言うようになり、少し困りました。
T君は、4年生のときから5年生の夏ごろまで教えていましたが、全くヤル気がなく、授業中もふざけてばかりの子でした。そして、これでは受験は無理だろうということで、退塾した子でした。それが6年生の夏休み前になって、また塾にもどってきたのです。学校の先生との折り合いが悪く、このまま公立中に行くのは本人もいやだと言い出し、性格的に合う私立中があるので本人もそこに進学をするのを強く希望しているのだそうです。本人も心を入れ替えて勉強するからという条件で再入塾しました。ところが、本人はがんばると言っている割には能率が上がりません。やっぱり受験は無理かと思い始めた矢先のピンタ事件だったのです。
その日以来、別人のように勉強し始めたT君は見事第一志望校に合格したのです。でもまだ若かった私にはT君が生まれ変わったように突然勉強し始めた理由はわかりませんでした。
後になって、子供なりに勉強しなくちゃいけないことはわかっていても、回りには物分りの良い大人が多く、無理して勉強しなくてもすんじゃいそうだという気持ちの迷いがあり、本気で勉強に取り組めなかったのです。ちょうど大人の「わかっちゃいるけどやめられない。」的な迷いで、これを断ち切るきっかけが欲しかったのです。そんなとき、やさしいと思っていた私が少し厳しい面を見せたので、その迷いの気持ちが吹っ切れたようなのです。それを自分に言い聞かせるように「先生がこわいから。」をくり返していたのだと理解できるようになりました。
小さいながら、子供の気持ちの世界もなかなか複雑です。
カーネル笠井
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