盗まれた時間
8月
24日
その日は残業で22時を回ろうとしていた
外はまだ身体から湯気が出そうな暑さ
駐輪場に置いてあるバイクにキーを差し込んだら
警察官ふたりに挟まれてしまった
まるで私が何か犯罪でも起こした犯人のように
このバイクを盗難されたと言っているひとがいます
調べさせてください、と
足を棒にして働きもうクタクタで
やっと帰れると思いきやこれはどうなっているんだ
私は勘弁してくれよ、と声を上げた
シートの下に車検証も自賠責保険の証書もあるし
免許書も見せるから確認してくださいよ
私がそう言うと警察官は
そこの交番まで行きましょう、と言う
パトカー3台そして警察官が数名待機している
これはすぐに帰してもらえないことを察知する
私は歩きたくないしバイクも押したくない、と言うと
バイクに乗って交番まで行くことになり
パトカーに前後挟まれ数百メートル走った
交番に入ると尻の痛いパイプの椅子に座らせられ
数名の警察官に囲まれた
ドラマで犯人が取り調べをされているような場面
そして盗難されたバイクなのか照合されると
威圧的な警察官の態度はコロっと変わった
間違いないですね
二輪車は齋藤さんのものでした
齋藤さんの二輪車を見て盗まれたバイクで
マフラーの傷も同じだと言いうので
調べさせていただいたのですが
誠に申し訳ございませんでした、と年配の警察官
若い警察官は、わたしも斉藤って言うんですよ
今度、何かあったら〇〇警察署の斉藤を呼び出してください、と
若い警察官が微笑みながら話す
何かあったら、ってあったら困るよ
まあ、私が犯人でないとわかると対応がソフトになり
そして、冷たいお茶が出てきた
実はそれからが大変で警察官が犯人扱いしたひとが
こちらの交番に向かっているので待ってくれと言う
私はすぐにでも帰りたいと訴えたが
もうちょと、もうちょと、と結局30分も待たされた
もう23時だよ……
そのひとは私に会うなり謝罪していた
自分のバイクもわかんねえのか、と怒鳴りたかったが
ここで時間を取りたくなかったので、はいはいと頷いた
もう明日の仕事がキツくなるし気分は最悪だし
さらにいざ交番からバイクに跨り帰ろうとすると
バッテリーは夏なのに上がっていてエンジンが掛からず
30メートルほどバイクを押してクラッチで繋いだ
はあ~、体力的にも精神的にも限界だ
サイドミラーには
私から時間を盗んだ者たちの見送っている姿が映る
最後のオチがこれかよ、と怒りを超え
貴重な時間を盗まれ苦笑いは家路を失走させた