伝書鳩
6月
9日
きいいすもいてんきだす
最初はなんだか
言葉が凄いことになっていたけど
それでも充分に通じた
母は
実家で掃除、洗濯、野菜作りと
元気に過ごしているが
八十歳を越えて心配になり
スマートフォンを渡した
母ちゃん
メールを教えるから
毎日なんか送ってくれ
なんでもいいよ
「生きているよ」でもいいからさ
もしメールが来ない時は
なんかあったんだと思って
電話するなり
こっちに飛んで来るからさ
そうかい
それは心強い話だね
母は画面のタッチが強く長く
凸のあるボタンを押すようして
違う画面が出てしまう
何度教えても
なかなか上手くいかない
こりゃ私には無理みたいだね
と、つぶやく母
それから
週末になると特訓が始まった
母にとっても
この歳で新しいことなんか
と思いながらも頑張っていたようだ
母が諦めないよう
メールをするために
必要な操作方法だけ書いて
それを見ながら
ひとりでやってもらった
やはりふと忘れてしまい
画面の長押しで上手くいかない
そこでタッチペンを購入し
母に操作してもらう
それでもその癖は直らない
母ちゃん
そこを押す時にポッと言いながら
押してみてよ
ポーンじゃないよポッだよ
それだよ母ちゃん
私は心の中でヨシャと叫んだ
この操作が出来るまで
長い道のりだったような気がする
文字を入力しながら
ポッと言う母は真剣だった
言葉が連なると
嬉しそうな顔を見せた
ポッポッポッ(鳩ポッポ)
ポッポッポッ(鳩ポッポ)
ポッポッポッ……
母ちゃん「鳩」を
歌っているみたいだね
そんなひと見たことないよ
先生の言う 通り
やっているだけでしょ
久しぶりに
腹を抱え親子で笑った
最近は花や野菜の写真が送ってきたり
メールにスタンプを入れたり
ビデオ通話もするようになった
お互いに諦めなくてよかった
幾つになっても
新しいことを開拓するのは
生きる活力になるだろう
「鳩」の歌に合わせ
今朝も母からメールが届く
生きているよ
今日もいい天気ですね