朗読会劇場
12月
24日
私の順番が来た
詩の朗読をするために前へ出る
緊張している
右手と右足、左手と左足が
揃って歩いているようだ
何度も声を出して読んできた
なのに自身(自信)がない
まだ練習が足りなかったのだろうか
お願いします
えーと、えーと
わ、私は、えーと
誰だっけ
みんな笑っている
どうしよう、どうしよう
自分の名前も出ないくらい
緊張しているのか
走って逃げ出そうか
いや、それはできない
五十のオヤジがそんなことできない
しかし、頭の中が白い
どうしよう……
おーい、客はジャガイモだから
気にしないでええよ
なんか言ってくれている
ジャガイモ、えっジャガイモが詩を聞く
えーと、ジャガイモが詩を聞くと
美味しくなるのでしょうか
私はほっこほっこなのがいいなあ
ワインのように良い音楽を聞くと
美味しくなるように
ジャガイモも
美味しくなるのかもしれない
それなら私が素晴らしい朗読を
しなければいけないってことなのか
おお、なぜにお前はジャガイモ
そして私はなぜに朗読者なのか
それは私が詩に飢えて
ジャガイモたちを食したいからだ
だから緊張なんてしていられない
ジャガイモを食わないと
詩では生きて行けないのだから
ああ、忘れていました
私の名前は杭根芋蔵です
いや待てよ
詩を聞いてもらう方を
ジャガイモだと思うのは
ジャガイモにたいへん失礼だ
人間がジャガイモより偉いなんて
思っちゃいけない
人間は平等で優しくなくては
生きて行く資格などない
ジャガイモたちよ
私の詩を聞いて心が休まるのなら
緊張などしている場合じゃない
大きな声で朗読をしよう
おお、ジャガイモたちよ
ああ、ジャガイモたちよ
よっ、ジャガイモたちよ
おーい、緊張は取れたみたいだけど
変わった詩だな
失礼しました