村に偏見のある時代 俺はいつも追いかけられていた 泥を投げられ、石を投げられ 人間の底の底 村で何か起きれば 全て我々家族が悪くて 違うなんて言えない 頭を下げることで受け容れれば 我が家になんとか仕事は与えられる 子どもの頃は 毎日のように村人に追われ 俺は頭がイカれたふりをして反発せず なんとか生きていけた いつも追いかけられ 現実も夢の中でも 村人が俺を追いかけて来る ある日、村で火事があった 村人は俺が犯人だと追いかけて来た 腹を括った 「俺がやった!」 これで俺は村人にやられ やっと死ねるんだと しかし、犯人は誰かだということは 村人は知っていたのかもしれない 俺は死ねなかった 村人は追いかけて来る 陸にいる限り追いかけて来る 村人が追っては来れぬところに行こう そう考えるようになった 大人になった、時代も変わった 俺は漁師になった 海には村人が追いかけて来れないと考えたから やっと自由になった と、思った途端に不安が襲って来た 追いかけられた中に 安心を育んでいたことに気づく 俺はもう追われていなければ 生きてもいられない人間になっていた 追って来る者のいない恐怖 正常な社会を知らぬ俺は もう生きている場所が見えなくなった 今、船は揺れ 波が俺を誘っている さあ飛び込め、楽にしてやるぞ 海が追いかけて来る どこまでも海が追いかけて来るが 俺はまだ生きている (先日、ある方の話を聞き詩にしました。内容は少し違うモノになっています)