「初恋」島崎藤村
12月
16日
まだあげ初(そ)めし前髪(まへがみ)の
林檎(りんご)のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれなゐ)の秋の実(み)に
人こひ初(そ)めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃(さかづき)を
君が情(なさけ)に酌(く)みしかな
林檎畑の樹(こ)の下に
おのづからなる細道(ほそみち)は
誰(た)が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
島崎藤村 /詩集『若菜集』
教科書に載っていた島崎藤村の「初恋」。学生の頃は美しくて悲しい詩だと思っていた。少女の嫁入りで、恋し相手とのお別れの詩だと…。あとでわかったが、100パーセント甘酸っぱい恋の詩だった。もらった林檎を彼女と重ね、これは初恋なんだな。ああ、いいフレーズだ。大人びた彼女にため息するとそれが前髪にかかる。わたしたちが何度も歩いたところは道に。ああ、素敵だ。ぜんぜん、悲しい詩ではなく初恋の香りプンプンだよ! もう一度、読もうっと。。。