五風先生 天国でも柔らかな茶道の袱紗捌(ふくささば)きで 茶器を清めているのでしょうか 私が今まで盗めなかった技はその袱紗捌きだけです 正座で足の甲にある豆を潰し 袱紗を何度も何度も折りましたが 到達できないと知り諦めた悔しさは今でも忘れません 五風先生の御点前に憧れた二十代 私は詩を書くことも忘れ茶道のことばかりで頭がいっぱいでした いつの間にか私も平点前(ひらてまえ)を教えるようになり そよ風先生 なんて呼ばれては照れながらも幸せな時間でした 五風先生は御宗家にご意見を言える唯一の内弟子 陰に陽に御宗家を支えてきた器は柔らかく 大舞台を成功させてきた茶人 茶器を愛しㅤ茶道を愛していたのですね 五風先生はいつもおおらかでしたが 一度だけ難しい顔を見せたことがありました 御宗家が 齋藤さんㅤ家(うち)に来ませんか とㅤおっしゃった時に 齋藤さんはきちんとしたところで働いているのですから とㅤ五風先生はおっしゃって私と茶道との距離を置かせましたね その真意は今でもわかりませんが 私の茶道への思いは五風先生からすると そよ風程度ということを見抜いていたのでしょう たぶんあなたが目指す道はそこではないですよ そう言いたかったのかもしれません 私は結婚して子どもができ 共働きで育児に追われると茶道からは遠ざかり 少ない時間で前のように詩を書いては自分を表現し 充実と喜びを得るという今があります 詩の世界で精進してゆくことで五風先生に近づける と 五風先生からすれば私はいつまでもそよ風かもしれませんが 心地よい風を吹かせたいものです いつの日かまた御茶も点てます 私は病気などをしましたから正座も上手くできませんが 天国の五風先生に私なりの袱紗捌きで茶を点てたいと思っています お召しになられますよね しばらく先の話となってしまいますがお待ちください 若き日に御指導を頂いた茶道は忘れません 五風先生ㅤ心より有難うございました では好き勝手に語ってしまいましたがこの辺で失礼致します 平点前(ひらてまえ)…基本的な点前