味噌ラーメンが食べたい
10月
13日
昼時のわりにはほとんど並ばないで
麺をすすることができそうだ
アスファルトからは熱気がむんむん
店に入ると冷房はそこそこ効いていて
汗が徐々にひくのを感じていた
少々お待ちください
そう言われスタッフの邪魔にならないよう
通路の端に佇む俺 並べられた漫画本から一冊抜き
グルメ紀行のストーリーで苦にならない待機時間
外でお待ちください
えっ なんでだよ
ひとり客が出れば直ぐに座れるし
外は蒸し風呂だし
おいおい 俺ってそんなに邪魔なのかよ
こんなに気を使って小さくなっているのに
ここは騒いではいけない
美味しい味噌ラーメンが待っているのだから
店の外に出て看板の横でひとり
俺 ラーメン待ちです
みたいな感じで突っ立っている
暑い 暑い 暑い
早く涼しいところで味噌ラーメンをすすりたい
仕方ない
この漫画の一話が終わる頃には店へ入れるだろう
漫画 外に持ち出さないでください
スタッフがわざわざ外に出てきて気分を悪くさせた
確かにそりゃそうだけれども それくらい いいじゃないか
味噌ラーメンを食べるためになんだか惨めな感じだ
そうきたか兄さん
もう ラーメンはいらないよ
俺は漫画本をそのスタッフに突きつけ
むんむん暑い商店街の人混みに消えた
食べたくないカレーライスを頬張っていた
あの味噌ラーメンは美味しいのに嫌な店だ
いや ひとりのスタッフと相性が悪いだけなのだ
けっきょく俺は意地も張れない男だった
日が傾きかけると
またラーメン屋の暖簾を潜っているのだから
さっきはあのラーメン屋には一生行かないぞ
なんて意気込んでいたけれども
俺の胃袋はやはりこのラーメン屋に握られているらしい
あちゃ まだあのスタッフがいる
惚けてすっと入ってしまえばいいさ
そうそう 俺は客なのだから
いらっしゃいませ
こちらのカウンターにどうぞ
なんだその笑顔
さっき漫画本を突きつけたことはなかったような空気感
接遇はけして悪くないじゃないか
昼時の俺はどれだけ感じの悪い男になっていたのか
腹が減ってイライラしていたのに違いない
反省 反省
さっきは済まなかったよ 兄さん
いえ 大丈夫ですよ
ちょっと待ってください……
ああ これでしたね
さっきの漫画本を持ってきてくれた
なんだよ めちゃくちゃ気の利くスタッフじゃないか
俺の完敗 しかもコールドゲーム
ありがとう
やっと俺も素直になれた気がした
これで煩わしさもなく味噌ラーメンが満喫できるぞ
味噌ラーメンをお願いします
へい 味噌一丁入りました