何モノ
10月
9日
私の耳はそちらへゆく
図書館の床には
氷が張られた緊張がある
青年が受付で挨拶をする
ここっこっこんにちは
きょきょ今日は本を読みに
ままっまっ参りました
よろしくおおっ願いします
兵隊さんのように背すじを伸ばし
坊主頭を深々と下げる
身体の向きを変え
もうひとりいた受付の方に
同じように挨拶する
ここっこっこんにちは
きょきょ今日は本を読みに
ままっまっ参りました
よろしくおおっ願いします
こちらこそよろしくお願いします
信頼関係のある微笑みが見られる
私は誰を知っているというのだ
ほんとうに誰かを知っているのか
ここが何処かを知っているのか
青年は私の隣に座る
手にした本を天井に向けて
掲げながらまた挨拶をする
よよっよっよろしくお願いします
そう言って本を開く
私は思わず青年に声を掛ける
誰かを知りたくて
鉄道が好きなんですね
青年は確かに私を見た
いったい誰なんだろうと
この世に存在しないモノを
見たような目で
いったい私は誰なんだ