黒い香りに時間が止まる 記憶を遡ることのない 魔力をもつ苦味は 精神の行きたい方向へ誘う 赤く甘い実を いったい誰が焙煎したのだろう アラビアの医師か エチオピアの山羊飼いなのか この偉大なる発見は どれほどの時間を止めてきたのだろう 会話もいらない 静かな空間にカップとソーサーが カチッっと鳴れば 過去も未来も香りに消されてゆく 此処にいる実感だけがあり得る 足を組み テーブルに肘をのせ そのひと口に わたしは一枚の絵になる