広辞苑を旅する
10月
1日
進んで行こう言葉の旅
三千ページ先まで道は続く
前回に一周した時は若かった
第五版時代
つめかけのない辞典
睡眠を促す言葉にパンっと
辞典が息を吐き出し閉じる
目が覚めれば
どこを旅していたのか
歩いてきただろう道を
ペラペラとめくり現在地を探る
旅は不便がつきものだった
先を急ごう
この調子だといつ旅が終わるか分からない
だけど
さほど進まないのがこの旅の特徴
あ行
「愛」
親兄弟のいつくしみ合う心。広く、人間や生物への思いやり。
「淫乱」
みだらな行いをほしいままにし性的に乱れていること。
おいおい
ここは長居してはいけない
帰ってこれなくなってしまう
か行
「我執(がしゅう)」
自分だけの小さい考えにとらわれて離れないこと
さ行
「3K」
きつい、汚い、危険な仕事。
5Sって言葉もあるよな
整理、整頓、清掃、清潔、躾
どっちも息苦しい感じだな
「残夢(ざんむ)」
目ざめてもなお残る夢心地。
いい夢だと幸せだな
た行
「闘詩(とうし)」
詩を作って互いにその優劣を争うこと。詩合(しあわせ)。
こんな言葉があったのか
詩で負けたらそれこそいい詩が書けそうだ
語彙というガイドは様々な景色を見せてくれる
初めて会う者たちとのコミュニケーション
素晴らしい体験ばかりだった
しかし
この旅は一年を越えると
特急列車の車窓から
通過する駅名が分からないような
味気ない旅を続けていた
途中下車のぶらり旅もせずに
歩くことも忘れて
二年が経ち
やっとこの旅は終わった
思わず「ん」と大きな息を吐き出した
それから二十年くらい経っただろうか
また無性に言葉の旅に出たくなった
第六版
今度はアプリというチケットを購入
いつでもどこでも旅が続けられ
ブックマーク(栞をつけて好きな言葉を集めたファイル保管)
カラーの景色
音声ガイド
動画での案内付きだ
ああ
快適な旅
それに
歳を重ねたからだろうか
言葉が自然に染み込んで行く
ただ
老眼が眼鏡を外させPadを近づける
なんとも霞んだ景色が気になるが
最高の旅になりそうだ
そして
この旅を終えたら
日本を越えて世界へ出よう
まずはオックスフォード辞典の旅だ
“ time ”
という概念だけで何十ページもあるらしい
日本の十九倍(I〜XX)
そんな壮大な景色が見られるらしい
とても楽しみだ
いやいや
英語は
This is a pen !
初級レベルだったのを忘れていた
やはり国内を満喫しよう
言葉の旅はまだ始まったばかりだ