小刻みに揺れる始まり 淡々とアンダンテで破壊され 最上の精度で新生される俺 リズム 旋律 2挺のチェロがエッジを効かせ 仕掛けてくる 徐々に 弦を激しく弾く弓 粘度を失った松脂が飛び散り 奏者1の息づかいは 俺を切り離してゆく魔王の吐息 未来に飛ばされた頭 過去へ歩き出す足 心は笑気を吸わされたまま リズムの脈を打つ 旋律はセレンディピティを持たせ 遠くにいる少年に入り込む いつかどこかの懐かしさに癒されると クールな微笑みを見せる奏者2 意表をつく変調 プレスト 力強いスタッカートは蒸気機関車の機動力 その振動に揺られる心地よさ リズムの速さと真逆に 俺は車窓から 緩やかな旋律に乗って麦畑を見ている 懐古趣味に浸り 知らぬ農婦に手を振る 2挺のチェロが奏でる安定感 旅は永遠に続く安らぎ 終わらない風景 終わらない夢のように そして ふたりの奏者は目を合わせ 浅く頷く 突然の霹靂 打ち込まれた光 痺れる俺 さらに リズムは剛腕による最速 荒馬の尻尾は弾き踊る トレモロ奏法の早弾きで旋律は目覚める クラシカルな風景は一転して ハードロックな都会に突っ込む 俺は振り飛ばされそうになった瞬間 弓は短く切られた 旅は終わりを告げた 音なきホールが 目的地に着いたことを気づかせる ひと呼吸の時間を与えられ 現実に戻された ブラボー 俺は 旅の続きを熱望して いつまでも 手を叩き続けた