チェロ × 2
9月
9日
淡々とアンダンテで破壊され
最上の精度で新生される俺
リズム
旋律
2挺のチェロがエッジを効かせ
仕掛けてくる
徐々に
弦を激しく弾く弓
粘度を失った松脂が飛び散り
奏者1の息づかいは
俺を切り離してゆく魔王の吐息
未来に飛ばされた頭
過去へ歩き出す足
心は笑気を吸わされたまま
リズムの脈を打つ
旋律はセレンディピティを持たせ
遠くにいる少年に入り込む
いつかどこかの懐かしさに癒されると
クールな微笑みを見せる奏者2
意表をつく変調
プレスト
力強いスタッカートは蒸気機関車の機動力
その振動に揺られる心地よさ
リズムの速さと真逆に
俺は車窓から
緩やかな旋律に乗って麦畑を見ている
懐古趣味に浸り
知らぬ農婦に手を振る
2挺のチェロが奏でる安定感
旅は永遠に続く安らぎ
終わらない風景
終わらない夢のように
そして
ふたりの奏者は目を合わせ
浅く頷く
突然の霹靂
打ち込まれた光
痺れる俺
さらに
リズムは剛腕による最速
荒馬の尻尾は弾き踊る
トレモロ奏法の早弾きで旋律は目覚める
クラシカルな風景は一転して
ハードロックな都会に突っ込む
俺は振り飛ばされそうになった瞬間
弓は短く切られた
旅は終わりを告げた
音なきホールが
目的地に着いたことを気づかせる
ひと呼吸の時間を与えられ
現実に戻された
ブラボー
俺は
旅の続きを熱望して
いつまでも
手を叩き続けた